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難題だったキムチとのマリアージュ

2007年12月20日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第13巻(週刊モーニング連載中)

 韓国で、『神の雫』は累計130万部という記録的なヒット漫画になっている。同時にワインそのものも空前のブームになっており、この作品は大企業のCEOたちにワインのバイブルとしても愛読されているという。

「一度ぜひ来てほしい」という現地の出版社のお招きに応じて、我々は今年1月、初めて韓国を訪問した。行ってみてビックリ。あちこちでカメラのフラッシュを浴び、新聞社がインタビューに来たり、ワイン好きの歌手や政治家たちから会食を申し込まれたり……。本当に売れてるんだな、と実感した。

 さて、この旅では多くの韓国料理を御馳走になった。参鶏湯、トッポギ、チヂミ、プルコギ……。これらはどれも日本人の味覚に合うが、日本料理にはない濃厚さとパンチがあり、美味い。ただ残念なことに、韓国料理につきものの辛味タレと副菜のキムチは「ワインには合わない」と感じた。キムチの辛味は口のなかに長く残り、ワインの繊細な果実味や複雑さをかき消してしまう。また不思議なことに、キムチを食べてワインを飲むと、キムチが一層辛く感じられてしまう。

 ところが「難物のキムチと合うワインを発見できたら、面白い漫画ができる」と、弟がいい出した。確かに高いハードルだけに、クリアした時のインパクトは大きい。それに、やり甲斐もありそうだ。我々はキムチとのマリアージュという難題をテーマに、『神の雫・韓国編』をスタートすることにした。

 実は、書き始める時点ではキムチにあうワインはまだ見つかってなかった。でも世界に星の数ほどワインはある。どうにかなるだろうと考えて、見切り発車した。

 しかし、やはりキムチは甘くなかった。「刺激に刺激を合わせる」という発想で、白はシャンパーニュを登場させることに決めたが、キムチに合う赤ワインがどうにも見つからない。最初は黒胡椒のようなスパイシーさがあるシラー種のワインを合わせようと思っていたのだが、黒胡椒と唐辛子とでは辛味の質が違う。ブルゴーニュもボルドーも全滅。「物足りないけど赤ワインはナシということにするか」と、なかば諦めモードになっていた。

 そんな時、イタリアに出張中のイタリア長介ことシニアワインアドバイザーの本間敦氏から電話がかかってきた。向うでは昼間、こちらは夜。まさに「神の雫」韓国編の原稿を書いていた時である。本間氏の第一声は「見つかりましたよ、キムチに合うワイン!」。

 彼が今いるのは海辺のカラブリアという町で、この町の人々は地葡萄「ガリオッポ」を育てる傍ら、唐辛子を作っているのだという。つまり彼らは唐辛子料理を食べながら、ガリオッポ種のワインを飲んでいるのだ。「だから辛い料理に合うのも道理なんですよ」と、本間氏は電話口で興奮気味に語った。

 我々は本間氏が帰国するのを待って、彼が持ち帰ったガリオッポのワイン『グラベッロ』をキムチと合わせて試飲してみた。飲んでみて仰天、もはや運命の出会いとしかいいようがない相性の良さだ。グラベッロには辛子のニュアンスがはっきり感じられ、キムチの強烈な個性を引き立ててくれていた。

 かくしてキムチに合う赤ワインは、本当に締め切りギリギリのタイミングで見つかった。イタリア長介氏には感謝の言葉もないが、世界は広く、どのような料理にも似合うワインが必ずどこかに存在する。そのことをまた改めて思い知った『韓国編』であった。

■今回のコラムに登場したワイン

  • グラベッロ

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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