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宇宙を感じるシャンパーニュ、ジャック・セロス

2007年12月27日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第13巻(週刊モーニング連載中)

 今年も、残すところあと5日――。忘年会へと繰り出す人の群れで、地元・吉祥寺の町は毎晩とても賑やかである。

 忘年会といえば、やはり欠かせないのが“泡”つまりシャンパーニュだ。私は毎年12月になると、「年末年始はどんなシャンパーニュを飲もうか?」とソワソワし始める。シャンパーニュの旬は夏の盛りと、お祭りシーズンの12月。ネットのワインショップもそれをよく知っているので、「泡特集」なんていうメルマガを次々と送ってくる。それらを眺めていると、締め切りの迫った原稿など後回しにして、美しい泡ワインのことばかり考えてしまうのである。

 で、今年の最後を締めくくる記念すべきシャンパーニュは、じつは夏頃からすでに決めていた。ジャック・セロスの『ヴァージョン・オリジナル・エクストラ・ブリュット』である。フランスの三つ星レストラン御用達で、生産量が少ないため、ジャック・セロスのワインは「幻」とも称される。栽培や醸造に独自のアイデアを採り入れ、天才醸造家との呼び声も高い当主のアンセルム・セロス氏は、ビオディナミと呼ばれる有機農法をシャンパーニュに導入したパイオニアだ。ビオというのは、天体の動きを観ながら耕作を行ったり、土壌や葡萄の能力を引き出す為に牛糞や水晶、花などを畑にまいたりする有機農法。あまりにマニアックなのでビオというだけで引く人もいるが、セロスの場合は自分なりにアレンジした独自のビオ農法を行っている。ビオ農法に不可欠の、天体の動きを示すビオカレンダーという暦も、彼は使っていない。

 また、品種をブレンドすると畑の特徴が失われるというアンセルム氏の考えで、葡萄はすべて単一品種が使われ、キュベごとに畑までが決まっている。さらに、醸造中の酸化防止剤添加を最小限に抑えるため、ワインの中の酸化酵素が活動しないように気を配り、初夏になると醸造中のワイン樽をせっせと地下の涼しいところに移動させるそうだ(ちなみにワイン樽は一個数百キロの重さだ……)。

 まるで自分の子どものように大切にワインを育てているセロス氏だが、そうでなければあのような味わいは表現できない、と私は納得する。クリュッグやサロンやベル・エポックやクリスタルも当然素晴らしいし、これらが単に美味しいという一言で済ませてはいけないワインであることも承知しているが、セロスを飲んだ時の恍惚感は、また別格なのである。そう セロスを飲むと体が宇宙空間に放り出され、煌めく星空と青くうねる海と、豊穣なる大地をいっぺんに飲み込んだような超常的スケール感と複雑さが感じられてしまうのだ。そんな泡ワインは、セロス以外に存在しないんじゃないかとさえ思う。

 ちなみに、私のセラーには上級キュベの『サブスタンス(本質という意味)』もしまってある。これは毎年、古い酒に醸造途中の酒を継ぎ足して何年もかけて熟成を完成させる、ソレラシステムという珍しい方法で作られる旗艦ワイン。もちろん涙が出るほど美味いが、入手困難を極める貴重品なので、例えば『神の雫』がテレビドラマになった時の初回の放映日とか、特別な日に飲むつもりだ。

 07年――「神の雫」が韓国で大ヒットし、それが日本のメディアにも取り上げられ、この作品がメジャーになった良き年の最後の1本に、ジャック・セロスの泡ワインは最もふさわしい、と思っている。

■今回のコラムに登場したワイン

  • ジャック・セロスの『ヴァージョン・オリジナル・エクストラ・ブリュット』

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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