2008年2月7日
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(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第11巻(週刊モーニング連載中) |
先日、久々に会う友人たちと、ワインを持ち込めるフレンチでランチを楽しむことになった。昨年末から何度も会う約束をしながら、仕事でドタキャンし続けてきた私。ここはひとつ素晴らしいブルゴーニュを提供して、これまでの非礼を許してもらおうと思い、ドメーヌ・モンジャール・ミュニレ「ヴォーヌ・ロマネ1級・プティ・モン」01年を持っていった。
金色の手のマークが目印のモンジャールは、現当主のヴァンサンで8代目という老舗ドメーヌ。そのマークが象徴するようにリュット・レゾネ(自然派農法)で手をかけてぶどうを育てており、果実味が豊かで濃厚、しかしエレガントさと繊細さも兼ね備えた素晴らしいワインを造っている(ついでにいうなら値段もバカみたいに高くない。そこもまた、作り手の良心が感じられて好ましい)。
ちなみに、このプティ・モンという畑は、1級という格付けだが味わいは特級に負けず劣らず。なにしろワインの神様アンリ・ジャイエのフラッグシップだった単独畑クロ・パラントゥーと、ヴォーヌ・ロマネの極上特級畑リシュブールに隣接しているのだから、その美味さは想像に難くないであろう。名手の造る麗しき1級畑、プティ・モン――友人たちもさぞ感激するだろうと思っていた。
が、店のソムリエが丁寧に注いでくれたこのワイン、香りは素晴らしいものの、タンニンが突出して強く感じられ、果実味が奥に引っ込んでしまっている。3カ月ほど前に同じプティ・モン00年を飲んだときは、妖艶な甘さと透き通るような優美さに圧倒されたというのに、そのどちらも今は感じ取れない。
「こりゃあ、冬眠中だったかも」と、01年を選んだことを早くも後悔した。ブルゴーニュ00年は、年末に眠りに入りかけている気配を感じたので、01年を選んだのであるが……。
ところが、同席した友人たちは「素晴らしい」「果実味がすごい」と感動している。「いや、このワインはいま寝ている。プティ・モンが起きて開いているときは、もっと素晴らしいんだ」と説明したが、「これでも充分素晴らしい」と皆、口を揃えて言う。私は「究極の姿を知らないから言う言葉だ」と半分聞き流しつつ、心の中では「01年ブルゴーニュは当分の間、封印しよう」と思っていた。
その深夜のことだ。机に向かって仕事をしていたら、背中にゾクッと悪寒が走った。やがて、のどが極辛キムチを食べた時のように痛くなってきた。翌朝には味覚が完全に鈍麻し、咳が止まらなくなり鼻も詰まり、ワインと焼酎の臭いも区別がつかなくなった。早い話、私は風邪をひいていたのである。おかしかったのはワインでも友人たちでもなく、風邪の菌に冒された私の鼻と舌だったわけだ。
「果実味が感じられなければ風邪、苦いと思ったら胃腸病を疑え」とは弟の弁である。腕利きのソムリエでも、体調が悪いと目隠し試飲をハズしまくると聞いた。まして素人の我々、ワインの味がおかしいと感じたときは劣化や冬眠を疑うより前に、自分の舌が健康かどうかもチェックしなくてはなるまい。ワインと飲み手、どちらが不健全な状態でも、楽しいひとときが楽しくなくなるのだから。
立春といえどもまだまだ続く寒さ、「今日はワインがおいしくない」と思ったら、皆さんも風邪の引き始めかもしれませんよ。
■今回のコラムに登場したワイン
夏を感じさせるフルーツが続々登場! ジューシーで甘酸っぱい旬の味わいを思いっきり楽しもう!
ご飯のお供にうれしい漬け物。心がほっとする手作り品や豪華なセットなど、こだわりの一品を取り寄せよう。