2008年2月19日
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(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第2巻(週刊モーニング連載中) |
最近、辛口白ワインにちょっとハマっている。きっかけは『神の雫』で、白ワインにもっと光を当てようという話になり、さまざまなアペラシオン(原産地)の白ワインを立て続けに飲んだことだ。これまであまり注目していなかった大衆的なマコン村の白ワインや、イタリアの白、オーストラリアの白……と、手当たり次第に栓を開けちゃっている。
これまで私は圧倒的な赤ワイン派だったが、探求してみると白ワインもなかなかに奥が深く、地域ごとの味わいの特徴が、赤ワインよりもわかりやすく表現されているような気がする。そして、いろいろと飲んでみると、やはり複雑性、気品においてはブルゴーニュこそが世界最高の辛口白ワイン産地だ、と改めて思う。なかでも両横綱は、モンラッシェ系の2つの村(ピュリニーとシャサーニュ)とムルソー村。両村は隣同士にも関わらず、その味わいは面白いほど異なっている。
モンラッシェ村は白の最高峰「ル・モンラッシェ」と、小さいながら珠玉のような特級畑「シュバリエ・モンラッシェ」を擁している。かたやムルソー村は「ペリエール」「ジュヌヴリエール」「レ・シャルム」という、特級に負けず劣らずの一級“御三家”を持っている。「ル・モンラッシェ」は、三銃士の作家デュマをして「ひざまずいて飲むべし」といわしめた世界最高峰の白ワインだが、10年以上瓶で熟成させないと、ウンともスンとも言ってくれないシロモノだ。かつてリリースされた直後のドメーヌ・ルイ・ジャドのそれを飲んだことがあるが、デキャンタに移した程度ではピクリとも開かず、日本刀のように鋭く光り、人を寄せつけなかった。モンラッシェ村のワインはそもそもが「鋼」に譬えられるようにハードで、きりっとしていて、切れ長で鼻の高いクールな美人のような風情がある。もしかしたら2つのモンラッシェ村が比較的標高の高い傾斜地に広がっていることが、こうしたキレのいい酒質に関係しているのかもしれない。
一方ムルソー村のワインは、「麦わら色」といわれるように、色からしてとても親しみやすい。味わいは香りがふっくらしていて芳醇で、ちょっと官能的で、ふわふわした亜麻色の長い髪の、丸顔の優しい女性を思わせる。モンラッシェ村と違って、ムルソーの畑の多くは日当りのいい平坦地にあるので、豊かで柔らかい味わいになるのだろう。
こうした対照的な個性のせいか、白ワイン好きはムルソー派とモンラッシェ派に分かれることがあるようだ。私はどちらも好きだが、あえていうなら寒い冬は味わいに暖かみのあるムルソーがより美味しいと思うし、暑くなるとモンラッシェ村のキリリとした硬質さが恋しくなる。
また、その日の気分によっても飲みたい白ワインは変わる。たとえば、なんとなく寂しい気分の時は、優しい味のムルソーに手が延びる。つい最近、かつての同窓生が突然死したという知らせが入ってきて、ざらりとした気分になったのだが、この日もやはりムルソーに思わず手が伸びてしまった……。
ハイな気分の時はモンラッシェ系でクールダウンし、ローな気分の時はムルソーに癒してもらう。そんな「気分とのマリアージュ」も、奥深い世界観と独自の個性をもつワインならではのたのしみだろう。
■今回のコラムに登場したワイン
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ご飯のお供にうれしい漬け物。心がほっとする手作り品や豪華なセットなど、こだわりの一品を取り寄せよう。