2008年3月27日
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(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第9巻(週刊モーニング連載中) |
ブルゴーニュ・ワインには、ふたつの出自がある。ひとつが「ドメーヌもの」といわれるもので、葡萄農家(ドメーヌ)が自分の畑で葡萄を育て、醸造・販売までを手がけたワイン。もうひとつが「ネゴシアンもの」で、農家から買い入れた葡萄で、ネゴシアン(酒商)と呼ばれる人々が醸造して販売するワインだ。ちなみにネゴシアンは、農家から樽ごとワインを買ってブレンドしたり、瓶詰めされたワインを買って熟成させたのち販売したり、さまざまな方法で自社銘柄のワインを市場に送り出している。
じつは何年か前まで、私は「ブルゴーニュを買うならドメーヌものだ」と思っており、畑をもたないネゴシアンものは、ドメーヌものに劣る、と考えていた。というのも、10年ほど前、某ネゴシアンが販売するヴォーヌ・ロマネ村の特級畑ワインを飲んだら、値段のわりに香りもイマイチ、酸と果実味のバランスも悪く、ガッカリさせられたことがあるからだ。この経験のせいで、私はネゴシアン・ワインに悪印象を抱き、ドメーヌものばかりを選んで買っていた。
しかしこの数年、多くの優れたネゴシアン・ワインと出会い、そうした偏見がふっとんだ。たとえば、ヴァンサン・ジラルダンのワインもそのひとつ。ジラルダンはサントネイに自社畑も持つ生産者だが、買い葡萄でワインを作るネゴシアンでもある。ネゴシアンとしての彼の旗艦ワインは、ヴォーヌ・ロマネの特級畑「エシェゾー」や「ロマネ・サン・ヴィヴァン」。とりわけ彼のエシェゾー01年を飲んだ時は驚いた。ジラルダンのエシェゾー01年は、かのDRCから葡萄を買って醸造したという噂で、華やかで甘い香りや、後味の長さは尋常じゃなかった。01年エシェゾーは大量に買い込んだが、あまりに美味しいため次々と飲んでしまって、セラーにはあと1本しか残っていない。
一方、モレ・サン・ドニ村に先祖代々の畑を持ち、五代目ドメーヌ兼ネゴシアンとして活躍するフレデリック・マニアンのワインも、価格は安いがレベルは高い。まだ45歳のマニアンは世界のワイナリーで修行を積んだ努力家で、DRC御用達の有名樽メーカー、フランソワ・フレール社から認められ、特製の樽を供給してもらっている。マニアンは毎朝早く自転車で、契約畑の葡萄をチェックして回る。自然の味わいを大事にしている彼は、葡萄にストレスを与えずに重力を利用して破砕、圧搾、発酵を行う「重力移動システム」を駆使してワインを作る。マニアンのワインは、若いうちは容易には開かないが、熟成するととてもエレガントになる。できれば5、6年は熟成させて飲むのがオススメだ。
一方、豊富な資金力によって一流ドメーヌから樽でワインを買い、瓶詰めして20年、30年と熟成させて売っているのがルモワスネだ。1877年設立のネゴシアンで、一流生産者のワインを瓶で買いつけ、広大なカーブになんと85万本の古酒を保存している。ドメーヌものの古酒は目玉が飛び出るほど高くて手が出ないが、ルモワスネ銘柄なら、70年代の偉大な特級ワインが2万円程度で買える。「お金がない、でも古酒が飲みたい」という人に、ルモワスネは一押しである。
このようにネゴシアンには掘り出し物が多いうえに、じつはドメーヌものと比較すると値段も割安である。かつての私のように「ブルゴーニュはドメーヌが一番」と思い込んでいる人も、ぜひ一度、上記のような優れたネゴシアン・ワインを試してみてほしい。
■今回のコラムに登場したワイン
夏を感じさせるフルーツが続々登場! ジューシーで甘酸っぱい旬の味わいを思いっきり楽しもう!
ご飯のお供にうれしい漬け物。心がほっとする手作り品や豪華なセットなど、こだわりの一品を取り寄せよう。