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ネゴシアン・ワインで謎解きゲーム

2008年4月5日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第15巻(週刊モーニング連載中)

 ワインはミステリーだと、つくづく思うことがある。たとえば目隠し試飲で、生産国や生産年を当てたりするのは、まさにミステリーの謎解きそのもの。目隠しでなくても、グラス光を当ててワインの色を眺めたり、香りをかいで味わいを想像するのも、謎解きのひとつといえる。謎を解きながら飲むそんな酒は、ワイン以外にはない。ワインの持つ奥深さや多層性、深遠なる世界観は、解こうとして解けない謎のようなものだ。

 さて、そんななかで最近私がちょっとハマっているのが「生産者当て」の謎解きゲームだ。前回の当欄でも話題にしたネゴシアン(酒商)、彼らはドメーヌ(生産者)から葡萄を買いつけたり、ワインを樽ごと買って自社ラベルを貼って出荷している。このネゴシアン・ワインがいったいどこのドメーヌの葡萄から作られたのか、あるいはどんなドメーヌのワインを樽買いしたのか、チビチビと味わいながら、ああでもないこうでもないと推理するのが、とても面白いのである。

 たとえば、最近飲んだ酒商ルモワスネの特級畑「シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ」96年。このワインは舌触りが絹のように滑らかで、凝縮された果実の甘味とチョコレートのアロマがあり、クラクラするほど官能的で、文句なしの逸品だった。私は、この上品で完成度の高いクロ・ド・ベーズは、もしかしたらシャンベルタン村きっての生産者、アルマン・ルソーのものではないかと推理した。ルモワスネはルソーのワインをしばしば樽で買いつけるとの噂もあるが、それだけが根拠ではない。ルソーの特級畑は大戦前に植えられた古木であり、ヘクタール当たり25〜35ヘクトリットルという低収量で収穫される。ルソー独得の肉厚な果実の凝縮感、フィネスはこの低収量によって実現されるわけだが、ルモワスネの96年クロ・ド・ベーズもまさにこの肉厚な凝縮感とフィネスが確かに感じられたのだ。もっとも弟は「クロ・ド・ベーズはどんな生産者が造ったってうまい。ルソーじゃなくてもフィネスがあるよ」というのだが……。ルモワスネに直接会う機会があったら、ぜひ本当のことを尋ねてみたい。

 一流生産者のワインを売り続けてきたものの、現在は米国投資家グループに買収されてしまった酒商、カミーユ・ジローのワインも「謎解き」にはもってこいだ。ジローはコント・ラフォン、メオ・カミュゼなど、超一流の生産者からワインを樽買いすることで有名だった。彼の取引する生産者の中には、神様アンリ・ジャイエの名前もあったという。そのジローの「ヴォーヌ・ロマネ1級畑レ・ボーモン」88年を弟と開けてみた。まず、栓を抜いた途端に、ふわっと華やかな甘い香りがたちのぼる。「とてつもないワインだぞ」と弟は大興奮。飲んでみて、二人で思わず顔を見合わせた。上品で優雅な甘味、そしてうっとりするほど長く、複雑な余韻二人同時に「これ、アンリ・ジャイエじゃない?」と叫んでいた……。

 ジローのレ・ボーモン88年が神様ジャイエのワインかどうか、神様も天に召され、ジローも商売を辞めている今となっては、謎は“迷宮入り”だ。ただ巨星アンリ・ジャイエや名匠アルマン・ルソーのものだと思い込みつつ飲むと、おいしいワインがさらに美味しく感じられる。それもまた、「謎解きゲーム」のだいご味のひとつなのである。

■今回のコラムに登場したワイン

  • 「シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ」96年
  • 「ヴォーヌ・ロマネ1級畑レ・ボーモン」88年

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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