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“Cマーク”ビンテージの意外なうまさ

2008年4月15日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第6巻(週刊モーニング連載中)

 皆さんはワインの「ビンテージ・チャート」なるものをご存知だろうか。葡萄の作柄を得点で示したもので、ワイン産地の団体や、ワイン評論誌などが作成している。

 有名なのは、ロバート・パーカーjr.が運営する雑誌「WINE ADVOCATE」のビンテージチャート。例えばボルドー地方ポイヤック村のグレート・ビンテージ82年には百点満点中の98点がついているし、ブルゴーニュのコート・ド・ニュイ地方の90年には、93点がついている。90点以上なら“優等生”、つまり偉大なビンテージと考えていい。

 これに対してよくない年はといえば、ポイヤック村なら72点がついた84年、コート・ド・ニュイでは50点がついた81年などだろう。

 ちなみにこのビンテージチャート、ワインの購入を検討するためのわかりやすい指標になる。例えば82年のポイヤックのワインは、状態さえよければ、26年経った今も若々しくておいしい。ムートンなどの一級シャトーなら、まだタニックで飲みにくく、飲み頃に達してすらいないだろう。一方、ビンテージ点数が低い年のワインは20年も品質を保てない場合があるので、84年のボルドーなどはすでにピークを過ぎている可能性がある。

 そうした飲み頃事情を消費者に伝えるために、WINE ADVOCATE のビンテージ・チャートには、スコアの脇に英文字が添えられている。まだ若すぎて渋く、飲みにくい場合はT(Still Tannic and Youthful)、まさに飲み頃の場合はR(Ready to drink)、飲み頃を過ぎていそうな生産年はCの文字がついている。CはCaution 、つまり「おいしくないかもしれないから危険」という意味だ。バッド・ビンテージの場合は、10年でCマークがつくこともある。私は日頃からこのチャートを参考にしながらワインを買っており、Cがついた生産年のものは、原則的に敬遠している。

 ところが先日、なじみのワインショップで94年のCHモンローズを見つけた。94年のボルドーは強いビンテージではなく、すでにCマークがついている。しかしこれは1万円程度の価格で、モンローズのバックビンテージとしては大変お買い得だった。私は「飲み頃を過ぎていても、この値段ならいいや」という気になり、これを買って帰った。

 結論から言うと、大正解だった。いや、このCHモンローズのうまかったこと。モンローズは女性的な名に似合わず男性的で、筋肉質で長熟、飲み頃になるまで長い年月がかかるワインである。だがこの94年は、強いビンテージではなかっただけに、すでに飲み頃に達しており、タンニンは丸く甘く、エレガントで優美な味わいを醸しだしていた。

 フランス在住のワインジャーナリスト、ムッシュ須藤は、72年というバッド・ビンテージのCHモンローズに惚れ込んで、ワイン業界に入った人だ。彼に、この94年モンローズの話をしたところ、「でしょ? 良くないビンテージは、早く飲めるしおいしいんですよ。素性のいいワインならね」といっていた。

 優良ビンテージは評論家も高い点数をつけるし、価格も高い。確かに値打ちもある。しかしその類のワインは、飲み頃になるまで長い年月を必要とする。大金を払って「お預け」を食らうくらいなら、お手頃価格のバッド・ビンテージのワインを買った方が賢いともいえる。それがモンローズのように素性の確かなワインであれば、“Cマーク”つきのビンテージでも充分、素晴らしい味わいが楽しめるはずだからだ。

■今回のコラムに登場したワイン

  • CHモンローズ 94年

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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