2008年5月21日
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(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第1巻(週刊モーニング連載中) |
「死ぬ前にもう一度飲みたい。でももう二度と飲めないかもしれないな」――と、弟が常々、初恋の人を思い出すような目で語っていたワインが、ある人物のご厚意で奇跡的に飲めることになった。そのワインとは、ほかでもない「ロマネ・コンティ85年」だ。
ロマ・コン85年がどのようなワインなのかは、ワイン好きにはわかりすぎるほどわかるはずだ。なにしろ、ブルゴーニュには点が辛いといわれている評論家のロバート・パーカーjrが堂々の100点満点を与え、「ブルゴーニュワインであろうと他のワインであろうと、これ以上優れた赤ワインは手に入らないであろう」と手放しの賛辞を送った、文字通りのお宝である。このようなダイヤモンド・ワインを、ありがたく飲ませてもらえるとは……ワインマニアにとって、これほどの幸運は滅多にあるまい。
ところがこの日、ワイン会の会場となったレストランに辿り着いてみると、85年ロマ・コンだけではなく、DRCモンラッシェ00年、ブルゴーニュの神様アンリ・ジャイエのクロ・パラントゥー95年という、市場では到底手に入らない(あったとしても高すぎて買えない)超レアな高級ワインが並べられていた。『神の雫』を連載する中で、さまざまな高級ワインを飲んできた我々だが、95年のジャイエのクロ・パラと85年のロマ・コンを並べて飲むのは、さすがに初めての経験である。
レストランのバー・スペースを貸し切りにして、厳かな気分で味わったこの3つのワインは、言葉では言い尽くせないほど素晴らしかった。誰もが香りをかぐたび、口に含むたび、「すごい」と唸った。ちなみにジャイエの提供者は、このワイン会の主催者の友人で、某企業の社長さんだが、ジャイエが亡くなったと聞いた時に「すぐさまバックビンテージを買いつけた」ほどのワイン通。避暑地に建つ彼の別荘には1万本以上のワインを寝かせているカーヴがあるそうだが、「ここはセキュリティーを厳重にしていて、指紋認証で扉が開く仕組みなんですよ」というから、相当なお宝ワインが眠っているのであろう。
ところで、こうしたグレイト・ワインを並行試飲してみて鑑みるに、素晴らしきワインというものには共通点がある。1つはなんといっても「味わいが複雑であること」。ロマ・コンにしてもモンラッシェにしても、単純な果実味だけでなく、数種類の花や土やハーブの香りがモザイク状に入り交じっている。この複雑性は、お手軽なテーブルワインには決して存在しない。2つめが「後味の長さ」。ワインマニアはこれを余韻と呼んでいるが、飲んだあとも甘い後味が長く舌の上に残る。なかでもジャイエのワインは、鳴り響く鐘のように長くリズミカルな余韻がいつまでも感じられ、圧倒された。そして3つめが「香り」だ。この日、3つのワインをサーブしてくれたソムリエが「廊下からこのお部屋に入ると、ワインの香りが部屋中に漂っているのがわかりますね」と驚いていたが、私もまさにそう感じた。天然の香水とでもいおうか、優美で官能的で華やかなあの香りは、やはり極上のワインだけのものといっていいだろう。
お宝を立て続けに飲み、自分たちが持参した2本のワインも空けた我々は、完全に出来上がり、千鳥足でタクシーに乗りこんだ。
それにしても百万円のワインも千円のワインも、飲めば酔っぱらうことに変わりはない。これは平等なのか、はたまた不平等というべきか……などと、酩酊した脳ミソで、少しばかり悩んでしまう一夜であった。
■今回のコラムに登場した商品
ご飯のお供にうれしい漬け物。心がほっとする手作り品や豪華なセットなど、こだわりの一品を取り寄せよう。
熱々のスープで楽しむめん類もいいけれど、これからの季節はサッパリした冷たいめんを楽しみたい!