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安酒屋のセラーに眠るお宝ワイン

2008年6月11日

  • 筆者・亜樹 直

マンガ

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第15巻(週刊モーニング連載中)

 ネット酒屋のメルマガをみていると「本当にワインも高くなった」と、溜息が出てしまう。ユーロが高騰したせいか、好景気に沸くロシアや、食の欧米化が進む中国がワインを買いまくっているせいか、ともかく高い。経済的破綻を乗り越えてワインを買い続けてた我々姉弟も、05年産のワインの高さにはさすがに参った。ボルドーの5大シャトーは軒並み1本10万円を超えているし、ブルゴーニュも、昔は6千円程度だったジョルジュ・ルーミエ「モレ・サン・ドニ1級クロ・ド・ラ・ビュシエール」が1万7千円もする。神様アンリ・ジャイエの後継者エマニュエル・ルジェ「クロ・パラントゥー」に至っては、16万円という、まさに家賃なみの値段だ。

 「この分だと、年末あたりにリリースされるDRCの05年はとんでもない値段になるね」と、弟。毎年必ず買っているDRC「エシェゾー」05年だけは買っておきたいが、10万円を超えると、かなりキビシイ。すると弟は「05年DRCはネットじゃ高すぎてムリだ。でも、例の“あの店”なら、意外と安く買えるかもしれないぞ」とニヤリと笑った。

 “あの店”とは、亜樹姉弟の住む町の一角にある、ごく普通の酒屋である。ここは輸入酒をメインに扱っており、ワインの品揃えもわりと豊富であるが、大半は千円〜2千円のデイリーワインだ。だから、昔の私はこの店に立ち寄りもせず、ただ通過していた。ところが数年前のこと、「ふらっとあの安酒屋に寄ったら、DRCが3割安くらいの値段で売っていた!」と弟が興奮気味に報告してきた。

 弟の話によれば、レジ台の下に小さいセラーがあるのでしゃがんで扉を開けてみたら、高級ワインが何本も横たわっていたという。奥の方を覗くと、すでにネットでは売り切れ状態のDRC99年(ちなみにグレートビンテージ)が数本転がっていて、すべてに3割引くらいの値札がついていたそうだ。弟は迷わず、その中で一番グレードの高い「ラ・ターシュ」を引っこ抜いて買った、という。

 まるでおとぎ話みたいだが、この酒屋は安ワイン目当ての客しか来ないので高級酒が全然売れず、タタキ売りしている可能性もある。話を聞いて、私もすぐに飛んで行った。

 すると弟の言うように、レジ台の下には小型の古いセラーがあり、DRCの99年モノが数本、ビックリ価格で寝ころがっていた。私がセラーの扉を開けて中身をシゲシゲと眺めても、忙しいレジ係のオバちゃんはまったく関心を示さない。2分くらい悩んで「ロマネ・サンヴィヴァン」を取り出してレジ台に載せると、オバちゃんは「えーと、××円ね」とレジを打ちながら、この宝石のような高級ワインを大根みたいに新聞紙でぐるぐる巻きにして、白いポリ袋にぽいっと放り込んだ。

 これらの高級ワインは、実は店主の単なる趣味で、店の経費で買っているから止むなくセラーにいれているだけで、積極的に売る気はないのかも……。そう思うと何やらお宝を発見した気になり、背筋がゾクゾクした。

 それからはこの店の前を通るたびにレジ台下のセラーを覗いているが、最近は価格高騰のせいか、ワインの数が減ってきた。店主も、高いカネで仕入れるのが辛くなってきたのだろうか。「このぶんだと、05年DRCがあのセラーに並ぶ確率は低いかもね」と私が言うと、弟はかなりガッカリしていた。

 タバコも値段が上がるたびに「卒煙」する人が増えるというが、ワインも値段が上がるたびに愛好者が減っていくようで、悲しい。生産者の皆さん、なんとかこれ以上の値上がりを阻止してくれませんかねぇ。

■今回のコラムに登場したワイン

  • クロ・ド・ラ・ビュシエール
  • エマニュエル・ルジェ「クロ・パラントゥー」
  • DRC「エシェゾー」05年
  • DRC「ラ・ターシュ」99年
  • DRC「ロマネ・サンヴィヴァン」99年

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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