2008年6月23日
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(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第15巻(週刊モーニング連載中) |
半年ほど前になるだろうか。銀座にできた「超」のつく高級レストランに、友人たちと3人でランチを食べにでかけた。私はモノグサなので、わざわざ電車に乗って昼飯を食べに行くなんてことは、メッタにない。しかし、このレストランは味もいいし、ワインの品ぞろえが素晴らしいと評判だった。さらに仲間のひとりが「誕生日特典」とやらで、おトクな割引券をもっていたため、ようやく重い腰を上げたのだった。
確かに、この店の料理はレベルが高かった。フランス料理の伝統と日本の旬の素材の融合といううたい文句通り、味はどこか和風だが、見た目はフランス風で、優雅な感じだ。 置いてあるワインも種類が豊富だし、気が利いている。それに割安である。ワインの仕入れ値がどのくらいか、私はおおよそ理解しているが、仕入れ値の3倍以上の高値で出す店が多い中、この店は1.5〜2倍程度の良心的価格で提供していた。私はうれしくなり、ドメーヌ・ルイ・ジャドのシャンボール・ミュジニイ1級をフルボトルで注文した。
香りを楽しむために、デキャンタはなし。ベテラン風のソムリエが試飲グラスで一口味わい、劣化がないかどうか確認したのち、華麗な手つきでグラスに注いでくれた。
……と、ここまではゴキゲンだったのだが、グラスに口をつけた途端、自分でも顔がゆがむのがわかった。魚のにおいがするのだ!
「ちょっと、このグラス、生臭くない?」と友人たちに尋ねてみると「確かににおうけど、これはワインの香りじゃないの?」という。そんなことはない。シャンボール・ミュジニイに森の香りや、草の香りがすることはあるが、魚のにおいなんて聞いたことがない。
私はソムリエを呼んで、このワインを一口飲ませてから「このグラス、魚臭いですよね?」と聞いてみた。ソムリエもすぐに気づいて、恐縮しつつ全員のグラスを交換してくれた。しかし、グラスにたんまり残っていた3人分のワインを黙って捨て、替わりのグラスワインを持ってこないとはいささか無神経な気がした。においのない新しいグラスでワインを飲みながら、私は「この店に来ることは、多分もうないだろう」と、考えていた。
ワインの試飲会などでも、私は必ずグラスのにおいを確認する。ふいた布のにおいが移っていることもあるし、洗剤のにおいが残っていることも結構多い。それに気づかず飲むと、ワインの香りが正確に判断できなくなる。
先日、弟の家でお客様を招いて、寿司とワインのパーティーを開いた。人数が多かったのでグラスが足りず、私も自宅にあったリーデルのシャンパーニュ・グラスを貸し出した。
ところが何日かたって、貸したグラスを自宅で使おうとしたら、なにやら生臭い。よく洗ったはずなのに、魚のにおいが残っている。私はすべてのグラスをもう一度、洗い直したが、2度洗いではまだ生臭さがとりきれない。結局、3度にわたって専用ブラシでゴシゴシ洗い、ダメ押しにレモンでこすり洗いし、東レの「トレシー・グラス拭きプロ用」で細かい汚れをすべてふき取った。そこまでやって、ようやく完全に無臭になった。
においの中でも、生の魚のにおいはなかなか手ごわい。皆さんも、寿司やサシミに合わせてワインを飲んだときは、気合を入れて二度洗いすることをおすすめする。そして素晴らしいアロマを楽しむためにも、ワインを飲むときには「ワインの香りをかぐ前に、まずグラスの香りをかぐ」ことを心がけてほしいものである。
■今回のコラムに登場した商品
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