2008年8月7日
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(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第13巻(週刊モーニング連載中) |
今年の夏も連日、異常なまでにクソ暑い。毎年、夏がくると不思議に思うことだが、どうして日本人は体温より暑い気温の中を、お盆の数日間しか休みをとらずに働けるのだろう?おまけに、そのたった数日の短い休みに乗車率100%超えの混雑した電車に乗り、渋滞20キロの高速道路をノロノロと走り、ボロボロになりながら帰省までこなしたりする。3時間もかけてユルユルと夕食を食べ、夏は1カ月のバカンスをとるフランス人が聞いたら、目をひんむいて倒れそうな話だ。
私は毎年1週間は夏休みがとれるが、それでも、夏休みが短いことに例年、不満を感じている。そして夏休み直前の今頃は、ナマケ心がピークに達し、仕事をやる気がしない。
ちなみに、こんな怠け気分の夜、決まって手が伸びるのは、カリフォルニアのワイン『フロッグス・リープ』だ。ユニークな蛙(かえる)のラベルが目印のこのワイナリーは、じつはアメリカの中で私が一番好きな生産者である。
このワイナリーの『メルロー・ナパ』を、初めて飲んだのは、5〜6年前のことだ。当時の価格は三千円台だったと思うが、値段に比して味わいは深く優しく、ほのかに草や土の香りがして、森の息吹のようなさわやかさが感じられた。コスパの高さに感激していろいろ調べてみたら、このワイナリーは徹底した自然農法を行っており、ワイナリーで使う電力もすべて、農場に設置した太陽電池でまかなっているという。つまり、LOHAS(ロハス)を地で行く生産者なのだ。
オーナーのジョン・ウィリアム氏は家業の酪農場を継ぐため大学で酪農を学んでいたが、学費稼ぎのためワイナリーで働いたのがきっかけで、ワイン作りにハマってしまう。大学院でワインの醸造学などを学んだ後、有名ワイナリーの「スタッグス・リープ」で修行。81年には宝物だったBMWのバイク2台を売り払い、その金を元手に蛙の養殖場だった土地を購入し、ワイナリーを設立した。「フロッグス・リープ」というのは、修行先のスタッグス・リープと、蛙の養殖場を掛け合わせてつけた名前。ワインのラベルに蛙のシンボルマークは「ちょっと変」だが、一度見たら忘れられないインパクトがある。
「ワイン作りは健康な土造りから」と考えるウィリアム氏は、時間をかけて土壌を少しずつ有機にしていき、化学肥料の代わりに醸造過程で出るブドウの果皮を畑にまいてきた。彼の畑の中には、害虫を消化する微生物の数が、他の畑の10倍も多く生息しているという。
フロッグス・リープのワインは酒屋で品切れになっていることが多いが、それもそのはずで、ウィリアム氏はワインの生産量をこの十数年、ほとんど増やしていない。カリフォルニアには増産に増産を重ね、大金持ちになっているワイナリーが多いのだが、ウィリアム氏は「金もうけには興味がない」といってのける。ワインボトルの裏に書かれたTime’s fun when you’re having flies(楽しい時は時間を忘れる)という言葉の通り、彼が最も大事にしているのは「楽しむこと」なのだ。土いじりとワイン作りを、そして人生を楽しむ。お金があっても、仕事に忙殺される生活は彼にとって「楽しくない」のである。
そうしたウィリアム氏の人生を写し取ったような、ゆったりとした味わいが、このワインには感じられる。そのせいだろうか、休めなくてイラついてる時も、この蛙のラベルを見ただけで、私は不思議とリラックスした気分になれるのだ。
今年も夏休みが三日間しかとれないニッポンの皆さん。せめてこの蛙のマークのワインで、のんびりと酔ってください。
■今回のコラムに登場したワイン
ランチタイムがますます充実する注目のアイテム。オシャレで多機能な水筒やマグ、弁当箱をご紹介。
暑いこの時期のおやつやデザートに食べたい、アイスやジェラートなど冷たいスイーツをお取り寄せ!