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甘口ワインの甘美なる世界

2008年8月19日

  • 筆者・亜樹 直

漫画

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第2巻(週刊モーニング連載中)

 世の中、酒もイケるが甘いものも大好きという「両刀遣い」が結構いるが、私は酒に目がないかわりに、甘いものが好きではない。会合でコース料理が出ればお付き合いでデザートを食べはするが、スイーツの類を自分でわざわざ買って食べた経験は、社会人になってからの二十数年で、わずか数回しかない。

 しかし、甘口であってもワインは別だ。スイーツを食べた時のあのヌラヌラ、ベットリとしたしつこい後味は、高品質の甘口ワインにはない。甘口ワインはまるで一夜の恋のように、蜂蜜やアカシアや南方の果実の鮮烈な香りを伴って、舌を黄金のヴェールで包み込んだかと思うと、美しく切ない余韻を残して風のように過ぎ去っていく。この独特の余韻のトリコになった私は、辛党にもかかわらず、甘口ワインだけは例外的に偏愛している。そして組み合わせの妙なのか、甘口ワインと一緒なら、苦手なチョコレートやスイーツの類もスイスイ口にはいってしまう。我ながらじつに不思議なことだ。

 甘口ワインの代表は、カビの仲間である貴腐菌がついたぶどうから造られる「貴腐ワイン」である。貴腐菌が葡萄につくと菌が果皮に無数の小さい穴をあけ、そこから水分が蒸発するため、葡萄が乾き果汁が濃縮される。この濃縮果汁を醸造すると、糖度の高い甘口ワインができあがる。また、ドイツやカナダなどでは、冬になっても葡萄を収穫せず、木についたまま凍らせる。凍った葡萄の実を絞ると、濃厚な葡萄果汁がとれる。この果汁でつくられるのが甘口のアイスワインだ。その他にもスペインのポートワインや、イタリアのヴィン・サントとか、さまざまな甘口ワインが世界中で作られている。ただ、果汁の量が少ない分葡萄をたくさん使うし、貴腐やアイスワインは天候次第で収穫量が増減するので、甘口ワインはおおむね値段が高め。貴腐の王様『シャトー・ディケム』に至っては、ハーフサイズでも1万円はくだらない。

 だから、私が「甘口ワインは素晴らしい。貴腐ワインだけでも飲んでみろ」と勧めると、友人たちは大抵「貴腐ワインは高いから」としり込みする。しかしオーストラリアなどの新世界や、ハンガリーのトカイ、ソーテルヌ近くのカディヤック村などでは、5千円以下の貴腐を売っている。本場ソーテルヌでも、格付けではないが『シャトー・カントグリル』など、コスパの高い優れた貴腐がある。

 それに、甘口ワインの場合は750ミリリットルのフルボトルを買わなくても、ハーフで十分楽しめる。ハーフならソーテルヌの格付け1級シャトー『シャトー・リューセック』も、4千円台で買える。それでも高いという人には、リューセックのセカンドワイン『レ・カルム・ド・リューセック』がお薦めだ。これなら生産年によっては2千円台で買えるし、本格的な甘口ワインの世界を堪能できるだろう。

 さて甘口ワインと食の合わせワザだが、フランスのマリアージュの発想だと「同じ味同士を組み合わせる」ので、甘口ワインにスイーツや完熟したフルーツを合わせる。あるいは、ブルーチーズやゴルゴンゾーラなどのクセのある塩気の強いチーズにハチミツをかけて食べたりもする(私はこの組み合わせが大・大・大好きだが、これにハマるとメタボの危険度が増すので注意されたし)。和風で行くなら、甘口の白みそを使った料理とも合う。ちなみにこの夏の猛暑の日、貴腐ワインを市販のマンゴー・シャーベットにかけて食べて(飲んで?)みたら、最高にうまかった。

 楽しみ方いろいろの甘口ワイン、未体験の方はまずレストランでグラス1杯を注文して、この甘美な世界をのぞき見してみてほしい。

■今回のコラムに登場したワイン

  • シャトー・ディケム
  • レ・カルム・ド・リューセック

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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