2008年9月1日
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(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第6巻(週刊モーニング連載中) |
以前もこの欄で書いたが、05年のボルドー・ワインは素晴らしい出来ばえで、ゆえに恐ろしいほど値段が上がった。五大シャトーに至っては、パーカーポイントが一番振るわなかったchムートン(といっても93〜95点)が一番安くて10万円をちょっと切る値段、あとは軒並み10万円超。98〜100点を与えられたchマルゴーに至っては、現在14万円前後の高値で流通している。プリムール(新酒の先物取引)では確かchオー・ブリオンが一番安く8万程度で買えたと思ったのだが、パーカー先生が98〜100 点をつけたため、もはや10万以下では買えなくなった。5本そろえたら60万の出費、と思うと気分が悪くなり、05年5大シャトーを私は結局1本も買わなかった。
が、そうしてヘソを曲げつつも、世紀のビンテージ05年の五大シャトーがどんな味わいなのか、ずっと気にはなっていた。そんな折、ワイン専門誌『ワイナート』さんから「5大シャトーの試飲会に参加しませんか」というお誘いがあった。「買いたくない、でも飲みたい」という葛藤(かっとう)を見透かされたかのようなありがたいお招き、むろん、断る理由などあるわきゃない。姉弟そろって、いそいそとワイナート編集部へはせ参じたのだった。
偉大な年の一流ボルドー・ワインは、若いうちは苦くて渋くて塩っぽくて(塩分ではないがミネラルの味が塩のように感じられる)、飲めたもんじゃないのがフツーだ。試飲用グラスに最初に注がれた濃厚な紫色のchオー・ブリオンを眺めつつ、私は「05年五大シャトーもたぶん飲めたもんではなかろう」と思っていた。案の定、オー・ブリオン05年は予想を上回る渋さと塩っぽさで、岩のように固かった。典型的かつ古典的な長熟型ワインで、熟成すれば素晴らしいポテンシャルを発揮することは予想できたが、現段階ではおいしくもなんともない。これをワインになじみのない人がデキャンタもせずに飲んだら、「何、これ?」と顔をしかめるだろう。
続いて飲んだchマルゴーは、舌がしびれるような強烈なタンニンを感じたものの、さすが女王の名にはじないエレガンスがあり、いま飲んでも結構、うまい。ところが強引なデキャンタと時間経過で、味わいのバランスがあっさり崩れた。パーカー先生が98〜100点をつけている05マルゴー、こんな弱腰のはずがないのだが……。ワインは保存状態などで味わいに差がでてしまうので、たまたまこのマルゴーがハズレだったのかもしれない。
三番手のchムートンは、ムートンらしく豊かで外向的な味わい。また、chラトゥールはかなり閉じていたが、テロワールをそのまま映し出したような、折り目正しく素直な味わいで、これもラトゥールらしいと思った。
驚いたのはchラフィットだ。五大シャトーの筆頭とされるこのワインは、やはりスゴイ。グラスに顔を近づけると、草いきれのようなカベルネの香りにふわっと包み込まれる。濃厚で硬く、現段階では飲みにくいが、堂々たる骨格の素晴らしさと、貴婦人のような優美さはしっかり伝わってくる。そして何よりも余韻が長い。香水のようなカベルネの香りが、1分近く口のなかに残っていたような気がする。これほどレベルの高いボルドー・ワインは、めったに巡り合えないだろう。
しばしば一括りにされて語られる五大シャトーだが、並行飲みをしてみると、それぞれの優れた個性がいっそう際立って感じられ、あらためて「やっぱり格付け一級はダテじゃない」としみじみした。これでもうちょい安ければ言うことなし……なんですがね。
■今回のコラムに登場したワイン
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