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今飲んでおいしいワイン、20年後においしいワイン

2008年10月7日

  • 筆者・亜樹 直

漫画

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第2巻(週刊モーニング連載中)

 この週末、セラーにローラン・ルーミエの「シャンボール・ミュジニー」02年を見つけて、寝酒に飲むことにした。ローラン・ルーミエはブルゴーニュのスター生産者、クリストフ・ルーミエのいとこ。だがワインの造りは全然似ておらず、開けてすぐおいしいクリストフのワインと違い、ローランのワインは若いうちは硬くてのみにくい。何年か前、評論家が高い点をつけたローランの特級ワイン「クロ・ド・ヴージョ」02年を飲んだことがあるが、岩のように硬くて渋く、とてもじゃないがおいしいなどとは思えなかった。

 だが特級クロブジョと違ってこのシャンボールは格下の村名ワイン。ワインは格が低いぶん開くのが早いし、生産から6年もたっているのだから、もう飲めるだろうと思っていた。ところが……開けてビックリ、このワインは硬く閉じており、グラスを回すぐらいではピクリとも開かなかった。2時間待っていたら飲めるようになるかもしれないが、寝酒なのだから、そんなことをしていたら朝になってしまう。私は待つのをあきらめ、3分の2を残したまま栓をして、冷蔵庫に放り込んだ。「若いうちは飲みにくいが、熟成後は素晴らしい味わいになる」というコメントつきで、評論家が高い点をつけているワインは数多い。確かに、20年、30年を経てようやくその本領を発揮する長熟型のワインは存在するし、熟成後のとろけるような味わいの素晴らしさはよく知っている。しかし最近、「長熟すればおいしくなる」ということの価値について、私はちょっとばかり疑問を抱いているのだ。

 こんな出来事があった。先日、都内でボルドーワインの品評会があり、30種類のワインを試飲した。その時、ある千円台のワインを私はおいしいと感じ、高い点をつけた。しかしこのワインは2時間たつと微妙にバランスを崩し、味も薄っぺらくなっていた。逆に、開けた直後は硬くて渋くて飲みにくかったワインの中に、意外なポテンシャルをみせるものがいくつかあり、試飲会に参加したワインの専門家も「これだからワインは、開けてすぐ判断できない」などと言っていた。

 しかし、もしもこれが品評会でなく宴席だったらどうか。開けたワインは2時間後には参加者の胃袋にすべて収まっているはずだ。飲んだ人たちは、おいしかったと思い、満足だろう。そういう価値を重くみるべきだと私は考え、2時間でうまさが薄れたワインへの評価を、あえて「高い」ままとした。

 開けてすぐうまいが、長時間は持続せず、従って20年の熟成は期待できないこういうワインは、実はお手頃価格のものが多い。例えば、神の雫で紹介した「ル・オー・メドック・ド・ジスクール」もその類である。こういうワインはマニア好みではないが、寝酒にもいいし、仲間同士でパーッと楽しく短時間で飲むのにはもってこいだ。

 20年後にはおいしくなる、というのはセラーで何年も寝かせることに苦痛を感じないマニアにとってこそ、魅力ある言葉だ。ワインを飲む人のほとんどは自宅にセラーを持っていない。そういう庶民にとって、20年後のお約束というのは、ほとんど意味がない。

 だが、評価を知らずに買ってみたら長熟タイプで、渋くて硬くてお手上げだった、というのでは困る。そこで提案だが、賞味期限と同じように、ワインにも「飲み頃表示」をつけたらどうか。すぐにでも飲めるワインは「今晩どうぞ」と、長熟型のワインには「20年後にどうぞ」と表示をつけるのだ。ワインを飲みたいがよく知らない人にとって、これは評論家がつける点数よりも、ずっとありがたい指標になるのではあるまいか。

■今回のコラムに登場したワイン

  • ル・オー・メドック・ド・ジスクール

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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