2008年12月3日
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(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第18巻(週刊モーニング連載中) |
家で飲むのも店で飲むのも、我々姉弟の場合はフランスワインが中心だ。ワイン仲間もみんな、フランスワイン愛好家である。だから、我々だけでなく世間の誰もがフランスワインの素晴らしさを認めていると思っていたが、世の中にはフランスワインに失望し、その価値を認めていない人もいるのだった。
その人物に出会ったのは、都内の有名フレンチで行われた、企業人中心のセレブなワイン会である。私は知人のSさんから誘いを受けてこのワイン会に参加したのだが、テーブルについた品のいい紳士たちの中に、業界でその名を知られているワイン販売会社のカリスマオーナー、N氏がいた。
このN氏、実は単なるワイン販売業者ではなく、カリフォルニアワインを日本に広めた伝道者的存在で、有名なカリフォルニアワインの愛好家であった。ところが不勉強な私は、オーナーの名前を聞いても、そのことがパッと頭に浮かばなかった。だから、私がレストランに持ち込んだフランスワイン(ちなみにテタンジェのコント・ド・シャンパーニュと、シャルロパン・パリゾのクロ・ド・ヴージョ01年)にまったく関心を示さなかったり、次々と超がつく高級でカルトなカリフォルニアワインを振る舞ってくれることを不思議に思い、「あのー、オーナーはどうしてカリフォルニアワインがそんなに好きなんですか?」と能天気な質問をしてしまった。
N氏は私のぶしつけな質問に表情も変えず「私も1969年まではフランスワインを愛していたが、それ以降は質が落ちてしまったんだよ」と前置きして、「これは何千本も飲んだ経験からの結論だ。カリフォルニアワインはフランスより素晴らしい」と断言された。
フランスワインの愛好者である私は、この言葉が頭の芯にぐさりと突き刺さった。そして、酔いも手伝って「どうしてそう言えるんですか? 経験っていわれても、わかりませんよ」とN氏にちょっと絡んでしまった。70代の彼が私よりはるかに多くのワインを飲んできたのは明らかだし、その日は入手困難なキスラーのピノ・ノワールを始めとして高価なワインを次々とごちそうになったにもかかわらず、不敵な振る舞いであった。ゴメンナサイ……。
N氏が振る舞ってくれた7〜8種類のカリフォルニアワインが、どれもたいへんおいしかったことは事実だ。しかし、あれから1カ月を過ぎた今も、N氏の「カリフォルニアワインが一番」という言葉がまだ腑に落ちないでいる。弟にその話をしたら「おれがその場にいたら、もっと絡んじゃったかも」と、苦笑していた。そして「カリフォルニアワインのイメージとはなにか」という話になった。
私のイメージは「割り切れる数字」で、弟は「両手に同じ重さの荷物を持っているようなカンジ」と言っていた。お互い、いわんとすることは同じで、飲んですぐおいしいこと、果実味豊かでわかりやすい魅力があることが、そうしたイメージにつながる。開けてすぐはおいしくなかったり気難しかったりするフランスワインは、逆に割り切れない数字で、小数点以下が延々と続く印象。しかし、そこがフランスワインの魅力なんだと思う。
もっとも、我々もあと20年、数千本もワインを飲み続けたら、見解が変わってくるかもしれない。N氏のようにフランスワインに失望することだって、ないとはいえない。ワインは奥が深く、今の自分には理解できないことも多い。ノムリエとして悟るには「まだまだ飲みが足りない」というN氏の言葉を胸に刻んで、これからも精進(?)を重ねたい。
■今回のコラムに登場したワイン
パーティーでさりげない心づかいを感じさせてくれるノンアルコール飲料。アルコールが苦手な人も、一緒にお酒を楽しんでいるような心地よい気分になれる。日本酒で有名な蔵が作る甘酒や、ノンアルコールシードルなど、趣向をこらした一本を持ち寄ってみては?
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