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“日本一のソムリエ”の素晴らしきワインさばき

2009年1月6日

  • 筆者・亜樹 直

漫画

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第4巻(週刊モーニング連載中)

 「ソムリエの仕事」とはどんなものなのか、知られているようで知られていないような気がする。多分、レストランでワインリストを見せながら本日のお薦めワインを紹介し、ワインの味をお客に確認させるのが仕事、と思っている人もいるんじゃないかと思う。

 実は私自身も、ソムリエの仕事がどんなものか理解はしているつもりだが、レストランで「ソムリエがいてくれてよかった」と思った経験は、そんなに多くない。年代物のワインのボロボロになったコルクを、うまい具合に抜いてもらった時などは「さすが!」と感動したりもするが……。

 しかし、優れたソムリエの仕事はこれほど凄いものなんだ、と改めて驚かされた。05年の全日本最優秀ソムリエコンクール優勝者・佐藤陽一さんの技術を目の当たりにした時のことだ。その日、我々は『神の雫』のドラマ化にあたり、主演の亀梨和也さんや、みやび役の仲里依紗さん、ドラマの制作スタッフなどとともに、日本一のソムリエの“ワインさばき”を学ばせてもらうべく、彼の経営するレストラン『マクシヴァン』に集った。ワインが看板の佐藤さんの店にBYO(持ち込み)するのは申し訳なかったが、「神の雫」にかかわりの深いワインを制作スタッフに試飲してもらいたかったので、無理を言って我々の手持ちワインを持ちこませてもらった。ちなみにその銘柄は、漫画に何度も登場する「CHムートン」の90年、みやびが花畑のイメージを抱いたDRC「リシュブール」00年、97年ものを第五の使徒として取り上げたミシェル・コラン・ドルジェ「シュヴァリエ・モンラッシェ」の02年、そして第四の使徒「CHラフルール」94年など、計9本である。

 しかしこれらのワイン、すべてがベストの状態とはいえなかった。例えば、厳しい年だった87年のCHパルメは、ピークを過ぎて元気をなくしていた。またCHムートン90年はまだまだ飲み頃を迎えておらず、一口飲んでみると渋くて固い状態だった。しかし佐藤さんは、丁寧なデキャンタで弱ったワインにも最後の一花を咲かせ、閉じた固いワインは、大胆なデキャンタを施して目覚めさせてくれた。持ち込んだ9本のワインは産地も生産年も状態もまったく異なっていたが、佐藤さんはデキャンタと抜栓のタイミングを調整しながら、すべてのワインを完璧な状態でグラスに注ぐ。ワインの味以上に、私は佐藤さんのワインに対する洞察力に感激してしまった。

 佐藤さんのワインさばきは、思わず見とれてしまうほど鮮やかだ。ヒヤリとするほど高い位置からデキャンタージュを決めてみたり、左手の指の間にグラスを三つ挟んで次々とサーブしたり、まるでマジックショーを見ているようである。実をいうと、神の雫を始める少し前に、たまたまこの人のデキャンタージュを見る機会があって、主人公の得意技の「高い位置からのデキャンタージュ」を着想したのである。初めて見た時も驚いたが、今見ても本当に鮮やかで、見事なワザだ。

 ソムリエナイフを自在に操り、目にもとまらぬ速さでコルク栓を抜く佐藤さん。きっと彼は、これまでの人生で何万回、いやもしかすると何十万回もコルクを抜いてきたのだろう。そしてその都度、いいワインも厳しいワインも、最善の状態にしてお客にサーブすることを心がけてきた。まさしくソムリエとは、高い見識と技術を要求される、難度の高いサービス業なんだとしみじみ思う。

 私はこれからも「いちノムリエ」として、佐藤さんのような名ソムリエとの出会いを楽しみに待ちたい。日本中のソムリエの皆さん、どうか頑張って精進してくださいね。

■今回のコラムに登場したワイン

  • 「CHムートン」90年
  • DRC「リシュブール」00年
  • 「シュヴァリエ・モンラッシェ」
  • 「CHラフルール」94年
  • 「CHパルメ」87年
  • プロフィール

    亜樹直(あぎ・ただし)

    講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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