2009年1月14日
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(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第8巻(週刊モーニング連載中) |
この数年、正月休みにはなぜか、ミステリーを見たり読んだりしている。去年は『刑事コロンボ』の「別れのワイン」を、そして今年は、アニメ『名探偵コナン』の「ワインレッドの告発」を見た。
実はこの作品を制作した読売テレビのプロデューサー、スワさんは、我々姉弟の先輩格ともいうべきワイン愛好家。その方から「この作品だけはぜひチェックしてほしい」と言われたので、12月15日に放映された時、録画しておいたのである。
スワさんは、我々姉弟のワインライフに深い影響を与えた人だ。初めてワインをご一緒した時、彼がワイン評論家ヒュー・ジョンソンの「ポケット・ワインブック」をおもむろに取り出し、飲んだワインの感想を小さい字で書き込んでいたのを、私は今も鮮明に覚えている。そのスワさん、何年か前にワインエキスパートの試験に合格して、銀色に輝く資格バッチを胸につけて、我々のワイン会に現れた。単なるノムリエである我々は、この風格ある銀の葡萄のバッチを見て、内心ちょっとうらやましかった。忙しい仕事の合間を縫って試験勉強をするという勤勉な行動自体、我々にはとうていマネできないのだが……。
さてそのスワさん制作の「ワインレッドの告発」、子ども向けアニメなのに、ワイン愛好家向けのような内容だった。まず、舞台となるのは、ワイン愛好家の社長宅。彼は膨大な数のワインコレクションを指紋認証システムで守られた地下カーブに寝かせているが、この贅沢な屋敷で、著名なワイン評論家の古希を祝うパーティーを開くことになる。そこにフランス文学の翻訳家の男(この男もワインの専門家)が会場に現れ、主催者である社長を「お前にワインの味がわかるもんか」と面罵。カッとなった社長は評論家を殴り倒し“死体”を地下カーブに隠す。このあたりはコロンボの「別れのワイン」と似ているが、その先の展開が違う。死体は実は生きており、地下カーブの中で意識を取り戻し、犯人に対する復讐を思いつく。それは、パーティーの目玉として振る舞う予定の「CHペトリュス1959年」マグナムをブンブン振り回し、ボトルの底に沈殿している大量の澱を舞い上がらせ、ワインの味を台無しにすることだった。ちなみに59年は偉大な生産年で、銘酒ペトリュスのマグナムとなると時価500万くらい。犯人はこの究極のお宝ワインを恭しく老評論家に捧げたが、「味がおかしい」と指摘され、愕然となる。そして名探偵コナンはこの瞬間、翻訳家がカーブの中で息を吹き返し、復讐を企てたことを見抜くのであった……。
全編を通して「CHオーブリオン85年」「CHムートン82年」「CHマルゴー90年」など、きら星のごときワインが次々登場するので、ワイン好きはとても楽しめる。またペトリュスの古酒を揺らして澱を舞い上がらせて味を壊すというのも、奇抜で面白い。古酒が澄みきった味わいになるのは、この澱に渋みやエグ味が集積されていくからだ。古酒を振り回して澱をすべて混ぜれば、美酒も濁ってエグい味になり、ざらざらと舌に澱がくっつく。私も「幻の銘酒にひどいことを!」と思わず拳を握ってしまった。さすがスワ先輩、実にマニアックなワイン・ミステリーである。
ただ、半分以上残ったペトリュスが見向きもされないまま、パーティー会場に放置されていたのは気になった。ワイン好きが集うパーティーなら、あれは絶対、誰かがこっそり持って帰り、澱が下がるのを待って飲むと思うのだが……。どうでしょうね、スワ先輩?
■今回のコラムに登場したワイン
冷えこみが厳しい早朝や深夜に、体を芯から温めてくれるスープはいかが? アツアツの一杯はきっとあなたの元気のもとに! コトコトと野菜を煮込んだミネストローネや有名シェフ監修の本格ポタージュ、野菜がたっぷり入った手作りスープなど、どれも身も心も満足させてくれるはず。寒さをしのぐ冬の常備食にぜひどうぞ。
一口にラーメンと言っても、その世界は奥深い。作り手の熱意と創意工夫が生み出すさまざまなこだわりの味を、お取り寄せでじっくり楽しもう。つけめんや油めんなども含め、一度は食べてみたい本格派アイテムをピックアップ!