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ドラマ「神の雫」の楽屋話

2009年1月28日

  • 筆者・亜樹 直

漫画

(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第1巻(週刊モーニング連載中)

 13日から、いよいよ日本テレビ版『神の雫』が始まった。私がお薦めするこのドラマの見どころは、なんといっても雫役の亀梨クンのワインさばき。随分練習したそうだが、高い位置からのデキャンタージュを見事に決め、華麗なスワリング(※注)も素晴らしい。三の線キャラのみやびも面白いし、竹中直人サンのロベールもコミカルで迫力があり、漫画とは違う味わいが楽しめると思う。

 しかし、私の周囲のワインおたくたちは、単純に楽しむだけでなく細かいところが気になってしまうらしい。例えば「つぶれかけたレストランでDRCリシュブールを飲むのに、なんでキャンティ(イタリア・トスカーナ地方のワイン)グラス?」とか、「2話目の遠峰との第一の使徒対決シーンでは、なぜブルゴーニュグラスを使わないの?」「漫画では82年のCHムートンだったのに、90年に変わってるのはなんで?」といった具合。同じように“違いが気になる”人もいると思うので、この場を借りて少し解説したい。

 例えば1話目のグラスだが、プロデューサーによれば「DRCリシュブールをキャンティグラスで飲んだのは、つぶれかけたレストランにグラスが何種類もあるのは変だし、シェフはワインを知らないという設定だったから」とのこと。また2話目の第一の使徒対決では、使徒がボルドーかブルゴーニュかわからないまま試飲するので、試飲用の小型グラスを使うことも検討したが、見栄えを考えてボルドーグラスより少し小振りなキャンティグラスを使ったそうである(ただし、今後は正解ワインに合わせて毎回グラスを変えることも考えている、とのことだ)。

 ワインのビンテージを変えざるをえないのは、漫画『神の雫』が始まってから5年経過していることが大きい。連載開始前、私と弟とシニアワインアドバイザーの本間敦氏と3人で飲んだ「DRCリシュブール99年」は非常に固く、デキャンタージュ1回では開いてくれなかった。その経験から、1巻の冒頭のシーン――みやびがリシュブール99年を開けてそのまま注いだら、美味しくないと客が怒りだす一節――を描いたわけだが、99年モノは現在は熟成が進んでいるはずで、お客が「渋い!」と怒るほど固くはない。だから代わりに直近のビンテージ04年を登場させたのだそうだ。そのほか、亀梨サンの年齢に合わせて時系列に問題が生じないよう、やむをえずビンテージを変えたワインもあるという。

 ちなみに先週、弟と2人で差し入れのワインをもって撮影現場を訪ねたところ、撮影協力をしているリーデル・ジャパンの社長、ウォルフガング・アンギャルさんと顔を合わせた。日本語が大変上手なアンギャルさん、グラスについて、こんな話をしてくれた。

「キャンティグラスを使っても、ブルゴーニュの赤ワインを致命的に壊しはしない。だから、飲むワインの産地がはっきりしない状態でとりあえず何かグラスを出すなら、キャンティで正解だと思います」

 逆に、ブルゴーニュ赤ワインに不向きなのは、口径の大きいモンラッシェグラスだという。ボウルが大きくてブルゴーニュグラスと形状は似ているが、これは飲んだ瞬間、舌の両側の酸味を感じる部分を刺激し、白ワインのキリッとした酸味を引き立てるよう作られている。だからブルゴーニュの赤をこれで飲むと、酸味が強調されすぎ、鼻についてしまうのだとか。グラス選びも難しいのである。

 それにしてもワインとはなんと複雑で、正解のない世界であることか。撮影の現場は今そんなワインの奥深さと格闘しているが、苦労が実り、珠玉の銘酒のように人々の心をとらえるドラマになることを期待している。

(※注スワリング=ワイングラスをぐるぐる回す動作のこと。ワイングラスの中で渦巻くように回し、ワインと空気を触れさせると、ワインの香りがひきたつ)

■今回のコラムに登場したワイン

  • DRCリシュブール99年

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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