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ワインへの酸化防止剤添加は必要悪?

2009年5月20日

  • 筆者・亜樹 直

写真拡大(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第1巻(週刊モーニング連載中)

 酒の飲み過ぎ、不規則な生活……などなど、体に悪いことをイヤというほどしている私は、せめて食べ物だけは気を使おうと心がけている。例えば米や野菜は無・減農薬栽培のものを、半加工品、調味料の類は化学調味料無添加のものを選ぶようにしている。

 なーんてことを飲み友達に話すと、「食品添加物とか気にしてるけど、ワインはどうよ。酸化防止剤とか、必ず入ってるじゃない」と、ツッコミを入れられることがある。

 確かに、世界で売られているほとんどのワインは、酸化防止剤の亜硫酸塩が添加されている。一山いくらの安ワインでも、天下のロマネ・コンティでも、その点は同じだ。ただしワインに酸化防止剤を入れるのは、コンビニ弁当のそれとは意味が違う。むしろ高品質のワインを作ろうとすれば、酸化防止剤は必要かもしれないとさえ私は思っているのだ。

 じつはワイン作りの工程において、酸化防止剤は大いに活躍している。まず最初に、酸化防止剤は発酵が始まる前の葡萄果汁に添加される。これによって果汁は痛まないで済むし、雑菌の繁殖も抑えられる。さらに、ワインが完成して瓶詰をする際にも再度添加されるが、これは瓶の中に残った空気や、寝かせている間にコルクを介して出入りする微量の酸素によって、ワインが酸化するのを防ぐためである。だから、長期熟成を前提としたワインはほとんどが酸化防止剤を添加している。フランスでは亜硫酸塩を入れるのが当たり前で、添加物としての表示義務もない。

 以上のような理由で、ワインにとっての酸化防止剤は必要悪のようなものだと私は割り切っているのだが、最近年を取って化学物質に過敏になったのか、酸化防止剤がちょっと多めに入っている(と思われる)ワインを飲むと、頭痛がするようになってしまった。ワインも10年20年寝かせていると、酸化防止剤が揮発する(?)らしく、古いワインで頭痛は起きない。しかしリリース直後のワインを飲むと、2回に1回は頭痛に見舞われる。傾向としては、赤ワインより白ワインの方が重症化する。またこの頭痛は一度始まるとなかなか治まらず、ひどい時は丸一日続く。メルシャン社のワイン情報サイトによれば「亜硝酸塩は体重50Kgの人が毎日9リットルずつ90日間ワインを飲み続けても、慢性毒性の症状は起きないという動物実験データもある」とのことで、この頭痛が亜硝酸塩のせいなのかどうか定かではないのだが……。

 ともあれこの頭痛のせいで、最近私はリリース直後のワインを敬遠気味で、「酸化防止剤無添加」と銘打った国産のワインをたまには飲むようになった。これらは総じて千円以下〜千円台と安価で、体にも懐にも優しい。しかし、残念ながら美味しいものはなかなか見つからない。とくに赤ワインは妙に甘かったり味のバランスが崩れたりしているものが多く、いまだ掘り出し物には当たらない。一方白ワインには意外と面白いものがあって、例えば長野県のアルプス社が造る『信州無添加樽熟善光寺竜眼』などはお薦めだ。スクリューキャップでなく本格派のコルク栓で、千円のワインにしてはかなり「飲める」。

 まあ時々はこういうワインを寝酒にするのも面白いし、気のせいか頭痛もしない。だけど、「河豚は食いたし命は惜しし」じゃないが、少々“毒”が入っていたとしても、本音をいえばワインはやっぱり長期熟成型のしっかりしたものが一番美味い。頭が痛くなろうと懐が痛もうと、結局私は死ぬまで酸化防止剤入りワインを飲み続けていくだろう。毒を食わらば皿まで、という諺もあるもんね。

■今回のコラムに登場したワイン

  • アルプス『信州無添加 樽熟』

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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