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ワインの名前は味を表す?

2009年7月6日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第6巻(週刊モーニング連載中)

 ブルゴーニュの吟醸地コート・ド・ニュイには八つの村があり、その中にはおよそ800以上のクリマ(畑の区画)がある。ブルゴーニュ・ワインは、畑ごとに特級・一級・村名などと細かい格付けがされており、0.3ヘクタールしかないが1本数万円のワインを生み出す「クロ・パラントゥー」などのような黄金の畑もあれば、村名ワインの原料としてブレンドされる無名の畑もあり……ピンからキリまでの畑が複雑に混在している。

 さらに面倒なことに、隣の村同士で同じ名前、それなのに格が違う畑、なんてのもある。たとえばブルゴーニュの主力産地・ヴォーヌ・ロマネ村には、村名の「レ・シャン・ペルドリ」という畑があるが、三つ隣の村ニュイ・サン・ジョルジュにも「オー・ペルドリ」という似た名前の1級畑がある。おまけにこの1級畑の単独所有者もまたドメーヌ・デ・ペルドリという名前なのだから、もうわけがわからない。ちなみにペルドリというのは山うずらのことで、ブルゴーニュの森には昔、山うずらが多く生息していたらしいのだが……。

 また、最近ブルゴーニュの地図を眺めていて、ヴォーヌ・ロマネ村の畑「エシェゾー」と同名の畑がジュブレ・シャンベルタン村とマルサネ村にも存在することを初めて知った。ヴォーヌ・ロマネのエシェゾーは高価な特級畑だが、残り二つの村のエシェゾー畑は格下の村名で、ブレンドされて使われているのか、あまりラベルで名前を見かけたことがない。じつにややこしく、わかりにくい。

 しかし「ワインの味わいと名前を関連づけしていくと、複雑な畑の名前もどんどん覚えられるようになる」と、フランス在住のワインジャーナリスト、ムッシュ須藤は言う。たとえばジュブレ・シャンベルタン村の特級畑「シャルム・シャンベルタン」では、ちょっと小柄だが魅惑的なワインが作られる。だからシャルム=英語のチャーム(魅力)=チャーミングなワインというように「名前と味の印象を結びつけて覚えていくと、ワインの味と名前は絶対忘れない」と、ムッシュ。

 いわれてみれば、畑の名前が味わいの印象と重なるワインはけっこう多いような気がする。ムルソー村の1級畑「グット・ドール」は、黄金の雫という意味にふさわしく濃厚でリッチで、気品がある。

 静かで繊細なワインが造られるシャンボール・ミュジニー村の1級畑「レ・ゾードワ」は、独特の優美さと透明感が特徴だ。実は、この畑名のドワ(douix)という単語が、泉または湧き水を意味すると最近知って、ものすご〜く納得した。森の光景を映し出す静かな泉のようなゾードワ……。ムッシュの言う通り、名前を思い浮かべるだけで、味わいが鮮明に蘇る。

 ブルゴーニュ・ワインだけでなく、ボルドーワインにも「名は味を表す」ワインはあると思う。美しい小石という意味の「CHデュクリュ・ボーカイユ」は、美しく気品のある庭園の白い石を思い起こさせるし、バラ色の丘という意味の「CHモンローズ」は、気高く力強く輝く、夕陽のような味わいだ。

 ワインの味わいから名前が生まれたのか、逆に名前のような味わいを追求した結果、そういう味になったのか。因果関係はよくわからないが、こうして関連づけをしながら飲むと、銘柄からワインの味を思い出す時の、格好の手がかりになるだろう。ワインをマジメに勉強したい人はもちろん、ワインの蘊蓄をさりげなく語って美女を口説き落としたい人にもお勧めの「記憶術」である。

■今回のコラムに登場したワイン

  • 黄金の畑「クロ・パラントゥー」
  • 特級畑「シャルム・シャンベルタン」
  • ムルソー村の1級畑「グット・ドール」
  • シャンボール・ミュジニー村の1級畑「レ・ゾードワ」
  • 「CHデュクリュ・ボーカイユ」
  • 「CHモンローズ」

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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