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胃に優しいチーズとワインのマリアージュ

2009年8月21日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第7巻(週刊モーニング連載中)

 『神の雫』をやっていると「ワイン飲むならチーズも好きなんでしょう?どんなものがお薦め?」などと、よく聞かれる。

 正直にいうと、私は生クリーム系のリッチなチーズを食べると胃もたれするタチだ。食べている時は美味しいのだが、食後に胸焼けがしてツライ。肝臓はタフな方だと思うが、本来は胃があまり丈夫じゃないのだろう。

 しかし私と同様、胃弱のワインマニアも数多くいる。そんな同志のため、この夏は私も「胃に優しいチーズ」をいろいろと試し、ワインとのマリアージュに挑戦してみた。

 胃に優しいチーズを選ぶポイントは、何よりも脂肪分が高くないことだ。柔らかいソフトタイプのチーズでは、脱脂乳(または低脂肪乳)で作られたカッテージチーズなどがその代表格だろう。ただ、味がいささか淡泊で物足りないので、スモークサーモンを載せて辛口のスパークリングワインと合わせるなど、ひと手間をかけたいところである。焼いた薄切りフランスパンの上にカッテージチーズの裏ごしタイプを塗り、ハチミツをかけると、甘口ワインにも合う。

 同じくソフトタイプで超お薦めなのは、「カチョカバッロ」というチーズ。もともとはイタリア南部でつくられていたらしいが、日本では北海道産が中心だ。まさにひょうたんそのもののユーモラスな形をしているが、これはチーズをひもで縛って乾燥・熟成させるうち、下部が膨らんでしまうためだとか。食感はプリプリしたカマボコのようで、牛乳の味はするがくどさはない。これを薄切りにしてブルゴーニュワインを飲み始めたらどうにも止まらなくなり、一晩でついにひょうたん型1個、丸ごと食べてしまった。それでも翌朝、胸焼けはほとんどなかったので、ほっとした。

 ナイフで切らないと食べられないハードタイプのチーズでは、オレンジ色の「ミモレット」が一押しだ。このチーズ、チーズダニというダニによって熟成するという変わり種で、熟成を続けるうちに徐々に硬くなり、カラスミに似た凝縮感のある深み味わいが出てくる。6カ月熟成、18カ月熟成ものなど熟成期間によって値段も変わってくるが、個人的には24カ月以上熟成させたカリカリの硬いものを、ボルドーの古酒と合わせるのが好きだ。この夏は79年の「シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ」と、苦労して探した36カ月熟成のミモレットを合わせたが、まさに長い歳月を経て深みを増した大人同志の“結婚”という感じで、実に味わい深かった。

 最後に、この夏出会った極めつきのチーズについて書こう。それを見つけたのは、とある観光地のパン屋さんだった。店内にある小さい冷蔵庫にポツンと一つだけあったそのチーズは、「モッツァレラのたまり漬け」とラベルが貼ってある。珍しいので眺めていたら、レジのおばさんが「美味しいよ、それ」と、いいものに目をつけたねといいたげにニヤッと笑う。聞けば、近隣の小さなチーズ工房のオリジナル商品で、わずかな数しか作らず、作るそばから売れてしまうのだという。すぐさま買って試食してみたら、まさに意外性を絵に描いたような美味しさ。主張しすぎない醤油の風味と生湯葉に似たモッツァレラの味が、上品で繊細な和のテイストを醸し出している。さっそくこのたまり漬けと、ロワールの作り手ディディエ・ダグノーの力強いソーヴィニヨン・ブラン「ブラン・フュメ・ド・ピュイィ」を合わせてみたら、頭の中で歓喜の音楽が鳴った。辛口リースリングでも、素晴らしく合うだろう。食後の胃もたれもほとんどなかった。

 ワインとチーズは、やっぱり特別な関係。胃に自信のないワイン愛好家も、このような胃に優しいチーズを探して、独自のマリアージュをぜひ、楽しんでもらいたい。

■今回のコラムに登場したワイン

  • 「シャトー・レオヴィル・ラス・カーズ」97年
  • ソーヴィニヨン・ブラン「ブラン・フュメ・ド・ピュイィ」

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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