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熟成士が造る“神のチーズ”

2009年12月4日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第7巻(週刊モーニング連載中)

 フランス出張の際、ワイン以外のお土産を選ぼうとすると、これが意外と悩ましい。2年前、ブルゴーニュに行った時はディジョン名産のマスタードを抱えるほど買って帰ったが、結局持て余して捨てるハメになった。

 かといって、空港で売っているチョコレートなどのスイーツ類は、今やネットショップで買える。わざわざ持って帰る意味がない。

 そんなわけで、9月のボルドー出張では土産をどうしようか思案していたところ、シャトーを案内してくれた通訳兼ネゴシアン(ワイン商)の加藤尚孝さんが「世界的に有名なボルドー市内のチーズ店をご案内しますので、ここでお土産を買いませんか」と素晴らしい提案をしてくれた。その店はフランスで三本の指に入るという有名なチーズ熟成士、ジャン・ダロスという人の店で、彼のチーズはボルドーの星つきレストラン御用達なのだそうである。

 ちなみに、フランスには「チーズ熟成士」(MAITRE AFFINEUR)という国家資格がある。チーズはもちろんチーズの生産者によって造られているわけだが、熟成士はヨーロッパ各地の優れた生産者からチーズを買いつけ、独自のノウハウでこれらをさらに熟成させて、より美味しく提供する専門家なのだ。彼ら熟成士はヨーロッパの主要チーズ産地に自家所有、あるいは契約の「カーヴ」を持っており、買いつけたチーズの熟成をそこで行う。チーズによって熟成期間はさまざまだが、加藤さんお薦めのジャン・ダロスの店では、カーヴでの熟成を終えたチーズを店の地下に運び、さらに1カ月ほど最終熟成を行って、店先に並べるそうである。

 チーズの熟成はワインのように蔵でただ寝かせておけばいいというものではなく、自重で形が崩れるのを防ぐために表と裏をひっくり返したり、カビが付着しがちな表面を布やブラシなどで手入れしたり、かなり手間ひまがかかる。しかしそのように手をかけて熟成させたチーズは、一味も二味も違うのだ。

 ジャン・ダロスの店にはスイスやフランスなどさまざまな産地のチーズが、手のひらに乗る小型サイズのものから一抱えもあるような大型サイズまで、豊富にそろっている。すべてが美味しそうだったが、私は結局、なじみのある「ミモレット」の18カ月熟成ものを、1キロほど買って帰った。多すぎるかなと思ったが、加藤さんによれば「食べ残しはワインセラーで保存すれば、腐らずに熟成していきます」とのことだった。

 いやぁ、このミモレットの美味かったこと。かむごとにチーズの中からじわりと深いうまみが溶け出してくるようで、ワインの奥深さと見事にマッチする。結局、ワインを飲んでは食べ、食べては飲み……を繰り返し、1キロのチーズは瞬く間に胃袋の中へと消えてしまった。

 食べ尽くしたあと、もっとダロスのチーズが欲しくなり、ネットショップなどを探してみたが、ダメだった。彼の商品を日本で買うのは、まず不可能だとわかった。

 「もう少し買っておけば良かったなぁ」とボヤきながら、最近では「チーザ」というチーズ味のスナックをツマミにしてワインを飲んでいる。スーパーで売っているような凡庸なチーズは、もう当分、食べたくない。それならばスナックのほうが手軽で良いと思う。それにしても、これほどチーズ味が恋しいというのは、ダロスのチーズが美味すぎたための後遺症だ。まったく、困ったものである。

 今度ボルドー取材に行ったときは、ワインは別送扱いにして、ダロスのチーズをスーツケースに重量制限一杯まで詰めて帰ろう……と、心に誓っている。

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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