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いまフランスの“テーブル・ワイン”が面白い

2009年12月22日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第4巻(週刊モーニング連載中)

 ボルドーワインに一級、二級などといった格付けがなされたのは、19世紀、パリ万博の時である。フランスの看板輸出商品ともいえるワインを展示するのに、当時の執政者ナポレオン三世は「対外的にもわかりやすいランク付けが必要」と考えたようである。

 しかしこれはボルドーワインだけの独自のランク付けで、規制とは違う。フランスにおいてワインに関する規制、法的整備がなされたのは、格付けに遅れること80年の1935年だ。この「フランスワイン法」では、産地、葡萄品種や醸造法、収穫量などにより、ワインを4ランクに分類している。上位ランクから「原産地統制呼称ワイン」「上質指定ワイン」「ヴァン・ド・ペイ(地酒)」そして最下位の「ヴァン・ド・ターブル(テーブルワイン)」。当然、お値段は上のランクにいくほど高くなる。ちなみに日本に輸入されているのは、トップランクに位置づけされたワインがほとんどだという。

 さて近頃私が注目しているのは、大衆酒ランクの「ヴァン・ドゥ・ターブル」。実はフランス産ワインのおよそ4割はこのランクに属しており、品質も底辺レベルになると安酒そのもの、である。ただ、このランクは原料の葡萄品種や醸造法に関する細かい規制や制限が少ない。だから生産者の心意気次第では自由な発想で面白いワインを造ることも可能で、そこが注目のポイントなのだ。

 ボルドーを拠点に独創的なワイン造りを行う英国人のアレクサンドル・シレッシュ氏も、注目すべき生産者のひとり。シレッシュ氏の造るワイン『レ・ドゥ・テロワール』は、異なる産地の異なる品種、それも異なるビンテージの葡萄をブレンドした、実に面白いワインなのである。

 例えば、現在流通しているレ・ドゥ・テロワールの赤ワイン『メルロー』は、ボルドー右岸のメルローを90%、南仏産のシラーを10%ブレンドしている。ビンテージは、メルローがボルドーの当たり年2005年、シラーが2003年。2003年はフランス全土が猛暑に襲われた年で、収穫量は少ないものの、凝縮感のある力強い葡萄が採れている。

 「メルローは柔和で優しい果実味を持つ葡萄品種ですが、伝統的に力強いカベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドされてきた事でもわかるように、少し骨格のしっかりしたワインと混ぜると、一層魅力を発揮するんです」と、シレッシュ氏はいう。

 「でも私は、カベルネでなくシラーをブレンドしました。シラーはメルローの優美さを損なうことなくワインに骨格を与え、エキゾチックなニュアンスも醸し出してくれます」

 フランスのワイン法では、異なるビンテージの葡萄を混ぜた場合は、生産年をラベルに表記できない。また同法はワインの地域特性を尊重しているため、複数生産地の葡萄をブレンドする事を原則、禁じている。だから例えばこのレ・ドゥ・テロワールのようにボルドーと南仏の葡萄をまぜた場合は、それがどれほど高品質でも、どれほど美味いワインであっても、最低ランクのヴァン・ド・ターブルとして扱われるわけだ。

 シレッシュ氏の解説を聞きつつ、私もレ・ドゥ・テロワールを試飲した。独特のバランスの良さと生き生きした美味さがあるが、高くはない。実勢価格で3千円を切る店もあるらしいので、きっと人気商品になるだろう。

 ブルゴーニュの辣腕ネゴシアン・ヴェルジェ氏も、ヴァン・ド・ターブルのメイン産地・南仏で、ビンテージ違いの葡萄をブレンドした面白い大衆ワインを生産している。一部を試飲したが、千円台にしては相当、美味い。「ラベル」ばかりに囚われていると掘り出し物を見つけ損なうのは、ワインにおいても同じ、のようである。

■今回のコラムに登場したワイン

  • レ・ドゥ・テロワール

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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