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ワインにフィルターをかけるべき? かけないべき?

2010年1月22日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第18巻(週刊モーニング連載中)

 「このワインはノンフィルターで造られています」といううたい文句を、ネット酒屋などでしばしば見かける。とりわけ無農薬で葡萄を造っている自然派や、こだわりのある造り手にこの「ノンフィルター派」が多いようだ。……と言われても、フィルターをかける(フィルタレーションと呼ぶ)とかけないでは、何がどう違うのか、よくわからない人もいるだろう。何を隠そう私自身も、これに関してはいろいろと悩むことがある。というわけで今日は「フィルタレーションって、どうよ?」というのがお題。

 まず「フィルターをかける」というのはどんな作業か。ワイン造りを行う中で、葡萄の果汁を絞り、酵母をいれて発酵を行った後、澱引き(沈殿物を残し上澄みを別の樽へ移すこと)をして、瓶詰め前にもう一度、果皮などの沈殿物を濾過する。これがフィルタレーションである。フィルタレーションをすることによって、澱が浮遊していない澄んだ美しいワインができるが、濾過によって香り、複雑味、コクなどが目減りする欠点もある。

 逆にノンフィルターとは、濾過を極力抑える製法のこと。ノンフィルター方式でワインを造ると、澱が瓶内にモワモワと残るが、旨味や香りの成分も多く残るため、複雑味があり、香りとコクが高いワインができる。

 最近ではワインを劣化・酸化させる成分を完全に取り去ることができる高機能のミクロフィルターも登場し、これを使って酸化防止剤無添加ワインを造る生産者もいる。昨今の健康志向で保存料を嫌う人も増えているなか、無添加はひとつの付加価値ではある。しかし澱を含むすべての成分を徹底的に除去すると、瓶内での熟成はほとんど行われず、ワインならではの熟成による変化を楽しむことができなくなる。私個人としては、いくら無添加でも、すべてを濾過してしまったジュースのようなワインはあまり飲みたくない。

 ただ、フィルターをかけているワインが、必ずしも味気ないわけではない。例えば私の好きなブルゴーニュのネゴシアン(買い葡萄でワインを造る生産者)のひとり、ニコラ・ポテルも、必要に応じてフィルタレーションを行う。樹齢35年以上の葡萄しか買い付けをしないというニコラは、月の満ち欠けに従って澱引きをするなど、伝統的なこだわりのある手法でワインを造っている。私は、ニコラのフィルタレーションをしたワインをすでに何十本も飲んでいるが、香りが劣るわけでもなく、複雑さも十分に味わえる。ボトルの底の方に残ったワインにも澱があまり混じらず、舌に不快感が残らない。また、彼のワインは渋味成分を含む澱が少ないためか、リリースからさほど経過していない若いワインでも、飲みやすい。だから熟成が待てずに、ついどんどん栓を抜いてしまうことになる。おそらくニコラはワインにちゃんと香りや複雑味が残る、絶妙のフィルタレーションを心得ているのだと思う。だからこのように淡泊すぎず濃厚すぎない、美味しいワインが造れるのだ。フィルタレーションの手練、といってもいい生産者である。

 いっぽうワインのタイプによっても、フィルタレーションの必要性の有無は分かれる。例えば、最近ではボージョレの生産者でもノンフィルター方式を採るところが増えているが、私はボージョレのさわやかさや軽さには、フィルター方式のほうが似合っているような気がする。とくにヌーヴォー(新酒)で飲むのが好きな日本人には、澱のない、すっきりとしたのど越しのほうがピッタリくる。

 優秀といわれる生産者にノンフィルター方式を採る人が多いのは間違いないところだが、ノンフィルター=美味しいワインというわけでもない。フィルターをかけても、美味しいワインはちゃんと美味しい、のである。

■今回のコラムに登場したワイン

  • ブルゴーニュのネゴシアン、ニコラ・ポテルが造るワイン

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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