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ワインとマリアージュするジビエの滋味

2010年2月10日

  • 筆者・亜樹 直

イラスト(C)亜樹直 オキモト・シュウ/講談社「神の雫」第22巻(週刊モーニング連載中)

 ワインが好きな人は、肉が好きな人が多い。確かにカベルネ・ソーヴィニヨンでつくられた重厚な赤ワインには、牛肉料理なんかがよく似合う。ボルドー・ワインに白身魚のソテーというのは、やっぱり幸福な結婚とはいえない組み合わせだ。それはわかっているのだが、私はどうも肉料理が好きではない。霜降り肉やフォアグラのように、重た〜い味の高級料理はとりわけ苦手である。ムリして食べた翌日の胸やけもツラい。

 しかし最近になって、牛や豚や羊に比べると、ジビエ(狩猟で獲った鳥獣肉)の類は、胸やけもせず美味しく食べられることに気がついた。

 ジビエが美味しいと思い始めたきっかけは、弟が軽井沢のレストランで造っている自家製鹿ジャーキーを、「ワインのツマミにいいぜ?」と出してきたことだ。鹿ジャーキーの見た目は良くない。コンブのように黒くカリカリに干からびていて、固そうで、一見すると食べ物のようには見えない。最初は尻込みしたが、「ワインにも合うし、美味いんだ」と弟がムシャムシャかじっているのを見て、ちょっとだけ食べてみた。すると……やや固いけれど、確かに美味い! 肉特有の臭みとか、脂身のモッタリ感とかがまったくなく、うまみだけが凝縮されている感じで、引き裂きながら食べていると、ついクセになる。

 この鹿ジャーキー、それからすっかり気に入って、ワイン片手にかじっている。そしてこの干し鹿のおかげで、最近ではジビエに対して前向きな興味がわいてきたのだ。

 家畜と違ってジビエは一年中食べられるものではないが、それだけに旬の味わいが感じられる。秋のフランスで食べた鳩のローストは味わい深く、奥行きのある味だった。牛や豚同様、チキンもあまり好きではない私であるが、この鳩はワインと共にスルスルと胃袋にはいっていった。また、最近食べた鹿のメープル・ステーキは、メープルシロップの甘さが鹿の滋味と相まってなんともいえない味わい深さを醸しだしていた。

 日本で食べられるジビエは、鹿をのぞくとヨーロッパからの冷凍輸入品が多い。それも最近では完全な野生ではなく、森に網を張って野生に近い環境で飼育したり、ある程度成熟するまで育てて野に放ったり、野生のものを餌付けする「半野生・半飼育」のジビエが多い。ハンターが獲った本来のジビエだけでは供給不足になるため、人工化の流れはやむを得ないのだ。ヨーロッパに生息する山ウズラやキジなどは、野生のものが激減しているので、今では飼育後に放鳥をした「半野生」のものがほとんどだという。それでも、野生に近い環境で育った山ウズラはダテじゃない。この山ウズラを一週間も寝かせ、熟成させてのちローストしたという料理を食べたこともあるが、熟成したワインのように味わい深かった。「完全養殖」のウズラは肉が柔らかく腐りやすいとのことで、生命力のある野生ウズラでなければ、一週間も寝かせて熟成させること自体、難しいのだろう。

 家畜と違って脂肪分の少ないジビエは、メタボを気にする向きにも人気のようで、最近ではジビエをだすワイン・レストランも増えてきた。しかし、健康ブームだけのせいではない。ジビエの深い滋味のなかには、その動物を育てた森や川や大地が見え隠れする。人工的な環境で飼育されている家畜の肉とジビエの味わいの差は、ワインでいうところの「テロワール」の差なのではないだろうか。

 あの鹿のジャーキーにも、我々が失いつつある自然というテロワールをどこか感じさせる滋味がある。だからこそジビエは、恵まれたテロワールで育まれたワインに、とてもよく似合うのだ。

プロフィール

亜樹直(あぎ・ただし)

講談社週刊モーニングでワイン漫画『神の雫』を執筆。これは姉弟共通のペンネームで、2人でユニットを組んで原作を描いている。時に、亜樹直A(姉)、亜樹直B(弟)と名乗ることも。このコラムを担当するのは姉の亜樹直A。2人で飲んだワインや神の雫の取材秘話など、ワインにまつわるさまざまなこぼれ話を披露していく予定。

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