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コラム「おいしさ発見」

芋の干鱈煮〜鱈が支える芋本来の味〜

2007年11月07日

 郷土料理には我々の及びもつかない知恵と豊かさ、奥深さが隠されています。

写真

芋の干鱈煮 撮影・越田悟全

 北海道、日本海側などに伝わる干鱈(ひだら)と里芋を煮た料理を、若いころ、その難しさも知らずに見よう見まねで作ってみたことがありました。

 戻した干鱈を水から煮て砂糖としょうゆで味をつけ、鱈に味がのったころに、ゆでた里芋を一緒に煮ました。ところが鱈はパサパサとなり、芋と一体感が出ない。そこで鱈の煮汁で芋を煮てみると、芋だけの料理になってしまう。これではお客様に食べていただけないと、数回であきらめました。

 ところが5年ほど前、ある文章を目にしました。どなたが書いたのかは記憶にありません。しかし、この料理について「生の里芋のぬめりが鱈に膜をはってぱさつきを抑え、干鱈のゼラチン質が芋を覆うので芋にはひびすら入らずに煮える」とありました。

 ひとつの言葉、一行の文章の中にも、料理のヒントがあるのだと思います。すぐに挑戦しました。

 里芋は新鮮であるほど、煮ているうちにひび割れるのですが、鱈と一緒に煮ていきますとそれがひとつもない。鱈もしっとりとしている。芋の切り口の美しさにも感動しました。

 注意したいのは、秋の掘りたての新しい芋と、春を過ぎて鮮度を失った芋とでは、味加減が変わってくるということです。里芋をふかしただけでもおいしい季節には、砂糖を極力控えたいと思います。芋本来のおいしさに、誰もが驚かれることでしょう。鱈と煮ているのに、その味は出過ぎず、芋は芋の味がする不思議な料理です。

(原宿「重よし」主人)


レシピ

【材料】(4人前)

里芋(大きめのもの)8個、干鱈(手のひらより少し大きい程度)約120グラム、水1800cc、酒100cc、砂糖20グラム、しょうゆ60cc

(1)干鱈は金づちでよくたたき、たっぷりのコメのとぎ汁の中に入れる。3〜4日間くらい、とぎ汁を毎日替えながら常温で戻し、適当な大きさに切り分ける。

(2)鍋に湯をわかし、干鱈を5分ほどゆでる。

(3)里芋の皮をむいて、きれいに水洗いする。

(4)干鱈と里芋を鍋に入れ、水をかぶる程度に加えて中火にかける。しばらくすると、泡のようにあくが出てくるので、すくって除く。火を弱め、落としぶたをして煮る。

(5)里芋に竹串を刺して、すっと通る程度まで火が通ったら、酒、砂糖、しょうゆを加え、40分ほど煮て味を含ませる。

(6)作った後にしばらく置き、食べる直前に温め直すと味がのる。

〈追記〉

 干鱈は、マダラまたはスケトウダラを開いて干した乾物。マダラの方が味がよい。3枚におろして頭と中骨を除き干した棒鱈は、流通量が減り手に入りにくくなっている。ここでは、背開きしたマダラに塩をして、日干ししたものを使った。

 盛りつけの際に、鱈の上に柚子(ゆず)コショウを乗せると、結構なものとなります。



プロフィール

佐藤憲三(さとう・けんぞう)
1944年、東京生まれ。22歳で日本料理の道へ。27歳のとき、修業先の名古屋の店の名前をもらい、東京・原宿に「東京・重よし」を開店。

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