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おやじの昼めし 京橋玉次郎のお品書き

小さな角の中華 八丁堀「シブヤ」

2010年7月27日

  • 筆者 京橋玉次郎

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裏切りは下

 見た目にそむいて意外に重かったりあるいは逆に軽かったり、接してみると思いがけずに硬い感じだったり柔らかい感じだったりすることがある。上物は量感も質感も見た目を裏切らない、というより裏切らないことが上物としては大事なのだとか。

 いや、人についての話ではない。焼き物、とりわけ茶道の茶碗についてのこと。昔出入りしていた陶芸の師匠が、雑談の折りに何気なく語った言葉だ。一瞬、見栄をはったり、いい格好をしたりしようとするわが心根を見透かされたようで、どきりとしたためだろうか妙に心に残っている。もちろん師匠は純粋に焼き物について話していたようだった。

シブヤは裏切らない

 鍛冶橋通りの京橋と八丁堀の境目に弾正橋という橋がある。池波正太郎の小説などに時々出てくる場所だが、今下を流れるのは楓川などと風情のあるものでなく首都高。弾正橋という名から想像するような面影はない。シブヤはその橋のたもとの小公園のような広場に面し、いかにも庶民的な表情をしてこじんまり存在している。

 店内は10畳くらいだろうか、入り口を入ると正面の壁に背丈を越す大きな鏡が2枚はめ込んである。汚れた鏡というのはひどく興ざめだが、これは曇りなく磨きこんである。昼めし時は二人のおばちゃんが手伝いに入っているが、基本的におやじさんと奥さんの二人でやっている、小ぶりな椅子23という小さな店だ。昭和の香りの外見と店内も、庶民的な店の人たちと料理も。そのまんまで何一つ裏切らない。期待以上でもないし以下でもない。

安くてうまい

 五目焼ソバは、あたかも野菜炒めのごとくに野菜が一杯で麺が見えない。箸でかき分けると細めの麺が出てくる。なかなか健康的なひるめしだ。味付けはやや濃い目だがごくごく普通にうまい。皿が思ったより深かったのか、量的にも十分だ。

 ラーメン500円、チャーハン600円。人気があるというニラ玉定食が750円で一番高い。リーズナブルな設定だ。家屋を借り人を雇っていたのでは、なかなかこの価格ではやってゆけまい。この値段と味にしっかり常連客がついている。1時を過ぎても一人客のOLやサラリーマン、職業不明のおじさんなどが親しそうに声をかけながら入ってくる。

3ケタの局番

 シブヤという店名は、あの渋谷にあやかって付けたわけではない。店主の渋谷さんが45年ほど前、中華を始めたときに命名したという。開店以来の雰囲気はほとんど変えてないそうだ。なるほど表の看板の電話番号も551−9021と局番が3ケタのままとなっている。先代は戦後ミルクホール、その後甘味や氷屋などをやっていたそうだ。

 壁にきれいな字でメニューが貼ってある。活字だと思っていたら娘さんの手書きだという。その娘さんも結婚して店を継ぐ気配はないそうで、「もう数年で70歳になるので、その頃が潮時かな」と、渋谷さん。気取らない店で、当方も気取らず気負わずに普通に食事を摂る。これはこれでいいもんだ。 

 ところで、先日銀座を通りがかったら東東居(4月27日に紹介)の入り口に、「6月26日をもって閉店」の張り紙があった。今日は昨日と変らないように見えるが、時は確実に流れている。少しさみしい。

【お店データ】

店名 シブヤ

中央区八丁堀3−2−4 〈地図〉 03−3551−9021

営業:〔平日〕午前11時〜午後2時、午後5時30分〜午後9時30分

土日祝休み

<本日食したランチ>

五目焼ソバ 650円

プロフィール

京橋 玉次郎(きょうばし・たまじろう)

 週2、3回のジム通いで運動不足を解消中。京橋・銀座・日本橋・八重洲・八丁堀中心の雑食的な昼めし散策のほか、天気のよい日に肩の力を抜いてサイクリングに出かけるのも楽しみ。元大手マスコミに勤務、不規則・不健康な記者生活36年だった。好奇心強く少し天邪鬼。1946年生まれ身長175センチ、A型。

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