現在位置:
  1. asahi.com
  2. ライフ
  3. 食と料理
  4. コラム
  5. おやじの昼めし
  6. 記事

おやじの昼めし 京橋玉次郎のお品書き

江戸の香り残す 銀座「木挽町 よしや」

2010年9月7日

  • 筆者 京橋玉次郎

写真   写真   写真   写真   

膨大な焼き印のコテ

 歌舞伎座の裏に当たる銀座の路地をゆらりと歩いていたら、なにやら見慣れないものが眼にとまった。立ち止まって仔細に見れば沢山の焼き印のコテだ。昔、下駄などの木工品に焼き印を押すことはあったが最近はあまり見かけない。日常生活では姿を消した道具の一つだろう。小さな店だが構えからすると和菓子屋らしい。

 「何してるの。中にも沢山あるからみてゆきなよ」。デジカメを取り出そうとしていたら、後ろからテンポの良い声がかかった。出先から帰ってきた店主であり職人でもある中村良章さん(61)だった。

マイどらやき

 中に入って驚いた。壁一面に焼き印のコテがかかっている。その訳はこういうことだ。客が希望の名前やロゴで焼き印を頼み、印を預かってもらう。必要なときに連絡し、必要な数に焼き印をしてもらい、箱に詰めてもらうという。つまりマイどらやきという次第だ。粋な遊びごころだ。

 コテを眺めるとポップスの人気男性グループ、歌手、相撲取り、大物政治家、声楽家、ミュージシャン、スポーツ選手などの個人から、広告会社、エアライン、食品会社、海外高級アクセサリーブランドまである。いずれも超売れっ子だったり、よく知られた人や会社だったり。その数2000弱、中村さんにも正確にはわからない。

小ぶりで上品

 ヨーロッパの高級装飾ブランド名が焼き印されたどらやき。もっとも、焼き印を英語で言えばブランドなのだから、原点に返ったようなものだが、相手がどらやきというのは大方の意表をつく組み合わせだ。遊び、あるいは心の余裕というようなものは、むやみとお金をかけるだけが能ではなさそうだ。

 肝心のどらやきだが、餡も皮も香りが高く、しつこくない甘さ。小ぶりな大きさも食べやすい。一緒に求めた桜餅も甘さを抑えた上品な作り。桜の葉の塩加減もいい。ときに塩が効き過ぎ、葉の主張が強すぎて興ざめの餅なども散見するが、よしやの桜餅はその按配が絶妙だ。食後にこんな甘いものを一口食すのもいい。

少ない練り切りの職人

 3人も客が入れば満員の狭い店内。菓子を作るのは中村さん一人。歌舞伎役者志望という甥っ子の青年も手伝ってこの日包んでいたのは元日本代表にもなった有名サッカー選手のマイどらやき。指揮官は中村さんの妹さんで、客の対応をしたり包装をしたりと大忙し。家族で和やかに仕事をしている風景は心和む。

 中村さんは、練り切り細工菓子の確かな腕で知られる、日本でも数少なくなった職人。だが、最近はどらやきの人気に押されて、なかなか創作に手が回らない、と鼻眼鏡をずり上げながらぼやく。服部学園で講師を頼まれたりもするが、その日が近づくと一人で演習をして、どらやきの手から練り切り向けの柔らかい手指にして臨むそうだ。店の名も江戸時代の古い地名の「木挽町」を冠している。失われつつある江戸の香りがしっかりここに伝わっている。

【お店データ】

店名 よしや

中央区銀座3−12−9 〈地図〉 03−3541−9405

営業:〔平日〕午前10時〜売切れゴメン(昼過ぎ〜夕方)

土日祝休み

<本日食した和菓子>

どら焼110円、桜もち150円

プロフィール

京橋 玉次郎(きょうばし・たまじろう)

 心身のリフレッシュに週2、3回スポーツジム通い。京橋・銀座・日本橋・八重洲・八丁堀界隈の雑食的な昼めし散策のほか、天気のよい日に肩の力を抜いてサイクリングに出かけるのも楽しみ。時には温泉泊まりの輪行で古い街道を走ったり峠を越えたりも。元大手マスコミに勤務、不規則で不健康な記者生活36年だった。好奇心強く少し天邪鬼。身長175センチ、A型。

検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内事業・サービス紹介
  • 大人のためのグルメガイド 豊富な店舗情報やたくさんの料理写真で行きたいお店がよくわかる。

フード・ドリンク

写真

自宅でラクラク、人気デパ地下スイーツもお取り寄せ(9/7)

極上スイーツがよりどりみどりで大人気のデパ地下グルメ。でも、デパートまでわざわざ足を運ぶのはちょっと大変…。そんな時は迷わずインターネットでお取り寄せ! 家にいたまま楽しめる、全国の人気デパ地下スイーツをご紹介。

写真

暑い夏に楽しみたい、うまみたっぷりのあつあつカレー!(8/24)

暑い夏に食べたくなるのは、やっぱりカレー。激辛タイプだけが注目されがちだが、うまみの効いたマイルドタイプのファンも多いはず。そこで、辛さではなくうまみに注目して選んだ味わい深いカレーをラインアップ。強い辛さが苦手な人に、ぜひ味わってほしい。