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おやじの昼めし 京橋玉次郎のお品書き

駅至近の名店 八重洲「穴子家」

2010年10月5日

  • 筆者 京橋玉次郎

写真隠れ家的な名店「穴子家」写真評判のランチ「おまぜ」写真備州ひのきのカウンター写真螺鈿や桜の皮を巧みに使った細工物の楊枝入れ

おまぜという握り

 大きな駅の駅前飲食店というのは、初めての客を相手にする場合が多く、どこと無く素っ気ない店も結構ある。東京駅の八重洲北口から外堀通りを挟んだだけという、至便のところにこうした隠れ家的な名店があるのは珍しい。その名は穴子家。穴子の専門店かと誤解されそうだが江戸前の寿司屋だ。ただ、穴子が売り物ではある。

 この店の評判のランチは「おまぜ」と呼ばれる握り1種類。いろいろ取り混ぜてのにぎりだからおまぜということらしい。この日はマグロ、カンパチ、カツオ、イカ、エビ、トビコ、玉子、穴子、穴キュー。穴キューとはこの店のユニークな1品で、穴子とキューリを海苔巻きにしたもの。私はここでしか食したことがない。コリコリッとしたキューリとほんわかした穴子の食感とが入り混じって不思議な味わいだ。

はるばる遠くからも

 握りの穴子も肉厚でほろりと柔らかく、少ししっかり目のシャリといい塩梅に調和する。他のにぎりも酢の具合やネタの仕事も悪くない。この味この価格のランチなら人気があるものうなずける。このおまぜを目当てに、ちょっと離れた銀座方面から、小走りに駆けつける客もあるという。しかもこの1人前、なかなかボリュームがあり、女性客など持て余す心配もあるので、注文を受けるときに「小さくしましょうか」とたずねる。なかなかの気配りだ。

吉川英治に可愛がられ

 注意深く見ないと見逃すが、備州ひのきのカウンターの端に、小さな額に入った暑中見舞いのはがきが飾ってあった。ヘタウマとでも言うのだろうか、味のある文字だ。差出人は俳優の緒形拳さん。寿司を握って50余年の親方、優しそうな吉原さん(68)とはいとこ同士。緒形さんがなくなる前の最後の便りなので記念に飾ったのだとか。余談だが、緒形さん最晩年のNHKドラマ「帽子」が文化庁芸術祭で最優秀賞を受賞した際、夫人と子息とともにここ穴子家で祝杯をあげて帰ったという。 

 親方はこの店を持つ30年近く前から銀座で修業してきたが、その頃から吉川英治に可愛がられた。背後の壁には彼の書いた葡萄の水彩画と、「この先を考えている豆のつる」と、目の前でさらさらっと若い親方に書いてくれた色紙も飾ってあった。誕生会に軽井沢に呼ばれ、川端康成などの文豪たちに会えたのが忘れられない思い出だという。

小道具に弱い

 カウンター8席、テーブル席22席。ランチのおまぜもさることながら、この店の本当の名物は穴子の太巻きらしい。3150円と巻物しては少々値が張るが、比類のない大きさが特徴的で根強いファンがいるという。こんど一度食してみたい。握りも3000円前後と気取りがなく、良心的で総じてリーズナブル。

 目の前にさりげなく置いてある小道具の楊枝入れも味わい深い。螺鈿や桜の皮を巧みに使った細工物。こうした小物に気配りをされるとまったく弱い。真実は細部に宿る。細部に気配りをする店は大体いい雰囲気を出すものだ。

【お店データ】

穴子家

東京都中央区八重洲1−5−3 〈地図〉 03−3276−0580

営業:〔平日〕午前11時〜午後1時30分、午後5時〜午後10時(土曜は穴子売切れ次第閉店)

日祝休み

<本日食したランチ>

おまぜ 1050円

プロフィール

京橋 玉次郎(きょうばし・たまじろう)

 心身のリフレッシュに週2、3回スポーツジム通い。京橋・銀座・日本橋・八重洲・八丁堀界隈の雑食的な昼めし散策のほか、天気のよい日に肩の力を抜いてサイクリングに出かけるのも楽しみ。時には温泉泊まりの輪行で古い街道を走ったり峠を越えたりも。元大手マスコミに勤務、不規則で不健康な記者生活36年だった。好奇心強く少し天邪鬼。身長175センチ、A型。

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