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おやじの昼めし 京橋玉次郎のお品書き

勝海舟もひいきにした明治の味 浦賀「うなぎ梅本」

2012年1月10日

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地味な路地の奥

 歴史の町・浦賀の地味な路地にある。「今日は梅本に行こう」という決意を持たなければ、まず訪れないであろう路地だ。しかし、かつてはこの道の奥に大いに盛んな遊郭があった。浦賀は江戸期には奉行所が置かれ、ペリーが来航し、近代は造船(浦賀ドック)で大いに栄えた地なのだ。

 梅本は海辺で創業したが、明治30年に浦賀ドックができることになり現在地に移った。今はかぎの手に6人分のカウンター、4人掛けのテーブルが2卓といたって質素でこじんまりした店内。昔の看板が飾られているが、かつて大きな割烹だったという面影はない。東京のせわしない昼時と違い、静かな通りの静かな店内。当方の気持ちもなごむ。

明治初年の創業

 上うな重2700円を頼む(並みは1800円)。うなぎ屋では待つのも仕事。ぼんやりと待つ。メニューを見ると、酒はすべて神奈川の蔵元の純米酒だけでそろえている。神奈川にも14もの蔵元があるという。そんなに蔵元があったとは全く知らなかった。「灯台もとくらし」、とはこのことか。

 そうこうするうち、うなぎを裂く音であろう、奥のほうからジリジリッーというかすかな音が聞こえてきた。待つ。カウンターに名刺が置いてあった。手に取って眺める。裏に小さな文字で何か書いてある。「明治初年にうなぎ割烹として創業。家宝の少し濃口のタレと備長炭で焼き上げた自慢のうなぎです」。やがて、かすかにうなぎを焼くあのにおいが漂ってきた。

時代にこびない素朴なタレ

 重箱は使い込まれ年季を感じさせる。炭火で焼かれたうなぎ、香ばしい皮の内側の身は思いがけずに手ごたえがある。甘みを抑えた素朴な味のするうなぎだ。5代目にあたる上野冨男さん(61)によれば、水温が一定の自宅の井戸水で十分に身を引き締め、なるべく天然ものに近いそれを目指しているという。

 秘伝のタレは約140年継ぎ足しつつ守ってきた昔通りの味なのだそうだ。5代目によれば、浅草の創業200年という日本屈指の老舗のタレも同じような味だそうだ。料理も時代に合わせて変化する。明治期の日本人が賞味したままの、時代にこびない伝統の味に浦賀の田舎で出会うのも一興だ。

若き日の福沢諭吉

 幕末、浦賀から咸臨丸に乗ってアメリカに渡った勝海舟は、出航を控え近くの海神である東叶神社で断食修業をした。そんな浦賀が懐かしかったらしく、後年よく訪れていたらしい。うなぎ好きだった彼は前述の浅草の老舗の常連でもあり、梅本にもよく立ち寄ったという。そんなおり、梅本のふすまに書をしたためたりもした。表具して保存していたが、「多分昭和の恐慌の時だろう、先代か先々代が金に換えてしまった」という。

 余談だが、咸臨丸には後に慶応義塾大学を創設した若き福沢諭吉も乗っていた。出航前、仲間と遊郭に上がった諭吉は、そこにあった大き目な器を、「船で飯をかっ込む丼に都合がよさそうだ」と、持っていったそうだ。しかしそれは、その筋の女性たちが手を洗うためのものだった。周囲はその時気が付かなかったのか、あるいは若い侍のすること、知らぬふりして後から笑い話の種にでもしたのだろうか。私は後者のような気がする。

【お店データ】

店名 梅本

横須賀市浦賀5−5−17 〈地図〉 046−841−0132

営業:〔平日〕午前11時30分〜午後2時、午後4時〜午後10時

月曜休み

<本日食したランチ>

上うな重 2700円

プロフィール

京橋 玉次郎(きょうばし・たまじろう)

 心身のリフレッシュに週2、3回スポーツジム通い。京橋・銀座・日本橋・八重洲・八丁堀界隈の雑食的な昼めし散策のほか、天気のよい日に肩の力を抜いてサイクリングに出かけるのも楽しみ。時には温泉泊まりの輪行で古い街道を走ったり峠を越えたりも。元大手マスコミに勤務、不規則で不健康な記者生活36年だった。好奇心強く少し天邪鬼。身長175センチ、A型。

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