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おやじの昼めし 京橋玉次郎のお品書き

にわか知識人の気分 日本橋「丸善カフェ」

2009年12月1日

  • 筆者 京橋玉次郎

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早矢仕ライス

 ティファニーで朝食はとれないし、丸善で檸檬を求めることは出来ない。でも、日本橋丸善ではハヤシライスは食すことが出来る。いやここのハヤシライスはカタカナでなく「早矢仕ライス」と書く。3階のカフェでの話。

 福沢諭吉のバックアップをうけ、明治2年に丸善を創業した早矢仕有的に由来するのだそうだ。医師でもあった有的だが友人が訪れると、ありあわせの野菜をごった煮にし、ご飯を添えて饗応するのが常だったとか。幕末か明治初年か、人々はそれを「早矢仕ライス」といい、ついにはレストランのメニューに書かれるまでになった、と丸善はいう。

微妙な甘さと酸っぱさと

 ここの早矢仕ライスのご飯の量は健康的で、やや物足りない向きもあろう。私はそうだ。この日、その早矢仕ライス1000円を食すべく出かけたが、「本日のおすすめ1200円」に、早矢仕ライスにロールキャベツが付き、しかも150円するご飯の大盛りがサービスとあった。少しお得な気分がする。

 早矢仕ライスは濃い茶色でいかにもきつい味に見えるが、一口ほおばると外見を裏切ってやわらかい味で甘い。しかもほんのりと酸っぱい。この甘さはたまねぎを中心とした野菜の甘さ、酸っぱさはリンゴなどを中心とした果物の酸味と推測される。そのほの甘さに当初は頼りなさを感ずるが、食べ進めると味覚が慣れるためか、その淡い味の中に深みを感じてくる。

洋食屋といった風情

 店の名前はカフェとなっているが、洋食屋といったほうがぴったりする雰囲気。騒音もなく、余裕のある空間使いの垢抜けた洋食屋。シュガーポットも含めたすべての食器がアッシュフォードのビエナブルーで統一されている。純白に深いブルーとゴールドの線が特徴的に鮮やか。いかにも上品な洋食といった景色を作り出す。

 もちろんカフェであるから、スイーツ類も充実している。遅い昼下がりに若い男性がケーキを食している場面を目撃することなどもある。普段男一人でケーキを頼むのは勇気が要るが、ここでは文庫本の一つも手にしているとさほど不自然に見えないから不思議だ。もちろん老若の女性たちがゆっくり午後の時間を過ごしている姿も多い。年中無休、営業時間中ならいつでも食事が取れるのも便利だ。

気分の良い錯覚

 明治34年に煉瓦のビルが出来たときの落成パーティーには漱石も参列している。いち早く洋書や文具を取り扱った丸善は文明開化の知的拠点であった。ビルや内装はすっかり新しくなったが、どことなくそんな文明開化の匂いを感ずるのは気のせいか。下の書店で求めてきた本をぱらぱらめくっていると、なんだか自分も知識人の仲間入りをしたように錯覚してしまう。

 ハヤシライスはその発祥や語源について丸善説以外にもいくつかあるようだが、まぎれもなく日本生まれの料理だ。白状するのは少し恥ずかしいが、私はカレーライスのように渡来の料理だと漠然と思っていた。偶然丸善カフェに寄らなければ、一生そう思い込んでいたに違いない。

【お店データ】

丸善カフェ

東京都中央区日本橋2−3−10〈地図〉 03−6202−0013

営業:〔平日〕午前9時30分〜午後8時30分 年始をのぞき年中無休

<本日食したランチ>

日替わり ロールキャベツつき早矢仕ライス 1200円

プロフィール

京橋 玉次郎(きょうばし・たまじろう)

1946年生まれ。週2、3回のジム通いで運動不足を解消。ウエストが5センチほど細くなり、昼の焼肉・トンカツにも食指が動くようになった。過去30余年の不規則な記者生活から解放された。昼めし散策のほか、通勤時の読書と休日のサイクリングが楽しみ。元大手マスコミ勤務のA型。身長175センチ。

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