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パリ日本文化会館で「おやつ実演」〜だんご編〜

2010年12月6日

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写真:まかない飯はふりかけご飯。それだけですごくおいしかったまかない飯はふりかけご飯。それだけですごくおいしかった

写真:まずはスライド上映。熊本の農家民宿を紹介まずはスライド上映。熊本の農家民宿を紹介

写真:熱心に聞いてくれた参加者たち熱心に聞いてくれた参加者たち

写真:質問が飛んでくると手がおろそかに…質問が飛んでくると手がおろそかに…

写真:ドキドキしながら完成してホッドキドキしながら完成してホッ

写真:作り上げた3品作り上げた3品

写真:終了後、写真を撮りに来た参加者たち=いずれもパリ・日本文化会館終了後、写真を撮りに来た参加者たち=いずれもパリ・日本文化会館

 「ボンジュール、今日のコンフェランシエール(講演担当者)です」。パリ日本文化会館の通用口でインターホン越しに名乗る。やっぱりドキドキする。「おやつ実演」初日の朝9時半、旅の友リエコさんと地上6階のキッチンへ向かう。急いで「だんご屋」になる。花見だんご用に白玉粉をこねて丸める。180個をゆで、3つずつ竹串に刺す。

 前日に準備した「ミニお焼き」も心配だった。具のネギ味噌がフランス人には辛すぎるかも…。決めた。生地を二重に巻いて辛さを和らげよう。間に合うかな。時計をにらむ。急いで小麦粉の袋を開ける。用意していた60個にまた生地をのせてくるみ、黒ゴマをふる。なんだかメロンパンみたい。「また凝ったことしたのねぇ」。私がいない間にやってきたコーディネーターのユミコさんは感心してくれたらしい。いや実は違うんです…。

 準備を終えるころお昼になった。会館の講座担当カリンさんがやってくる。「ご飯、炊きましたから」。庄内米が4合、ほかほか湯気を立てていた。使い捨て皿によそう。担当者5人でほおばった。おかずは塩昆布やふりかけだけなのに、何ておいしいんだろう。身もだえする。ユミコさんは紫色のニンジンをスライスして出してくれた。三ツ星レストランのシェフ御用達の八百屋さんのものという。酢と塩コショウしただけなのに、素敵。しゃきしゃきと野がはしゃいでいるみたい。塩昆布は事務局カワバヤシさんのお母さんが日本から送ってくれた小豆島産だった。ご飯がすすむ。2杯もおかわりした。カワバヤシさんは言った。「塩昆布とご飯って、こちらの人ならバゲットとチーズみたいなものでしょうねぇ」。

 もぐもぐしながら話す内容をおさらいする。はちゃめちゃフランス語が通じるだろうか。夜な夜な辞書を片手にカンニング・ペーパーを作ってきた。まあ何とかなるだろう。いざとなったらユミコさんに頼ろう。だいたい作りながら話すって難しい。口が動けば手元がおろそかになる。いつか大阪で話に夢中になり、ガトー・ショコラを焦がしたこともあったっけ…。

 ブツブツセリフを読み上げていたら開場時間になった。続々と参加者が入って来る。「ボンジュール」。笑顔、笑顔。にやにやしながら言い聞かせる。常連らしい女性とユミコさんがほおを寄せてあいさつしている。小声でささやかれた。「あの人はね、女性誌マダム・フィガロの関係者」「いまのは有名な画家の奥様で…」。うわー緊張させないで。手のひらにじっとり汗をかく。男性は3分の1ぐらいだろうか。さすがフランス、日本だとほとんど女性で埋まるはず。

 まずはスライド上映してだんごの説明をする。「えーと、モチモチした食感が日本人は好きで…」。「モチモチ」を訳すのって難しい。「湿気のある弾力」と仏語で言う。思いついて「英語じゃchewy」と表現してみる。「どれも何か違いますよねー」。ユミコさんに日本語で助けを求める。日仏英が混じった「タダ語」になって、日仏双方の参加者とも「今の、何語?」みたいな顔をしていたかも。

 実演でもやらかした。白玉粉に水を一気にドバッと入れる。あ、しまった。少しずつ入れなくちゃいけなかったのに。「このように耳たぶのように…」と言いながらあせる。あれ、耳たぶにならない?!トロロみたいになってしまった。ちゃんと計量したはずなのに。おかしいなぁ。涼しい顔をして粉を足す。こういうごまかし方は製菓学校時代から得意なのだった。

 2回目の実演では慎重になり過ぎたか、水を入れても入れてもまだ硬い。耳たぶどころかポロポロしたままだった。あせっていても質問が飛ぶ。「オヤキは蒸してもいいのですか?」。うーん、「お焼き」というからには焼いてほしい。語源を説明していると手が止まる。あんこの材料である小豆の説明をするのに、何度も「アリコ・ヴェール(さやいんげん)」と言ってしまう。しまいには聴衆から一斉に突っ込まれた。「それはアリコ・ルージュ(小豆)!」。ありがとう私の先生たち。笑顔で切り返せた。

 何とか終えて試食タイムになった。金びょうぶのあるホールでだんごを囲む。カメラ持参の人も多い。へえ、フランス人も写真、撮るんだな。テーブルを回って話す。「京都の錦市場と寺町で見かけたモチは何という名前?」「この間は高松でうどんを食べたわよ」。さすが日本通が多い。よく知っているな。

 心配したお焼きは日仏双方から絶賛された。「絶対、お酒がほしくなりますね」。日本勢はネギ味噌にうっとりした。ずっとコラムを読んでくれていたという通訳ハナコさんは「なつかしい味に感激しました」。こちらこそ会えてうれしい。「カンペキ!」最前列で聞いてくれていた金髪の少年は日本語で叫んだ。うわー、感激。心がホカホカする。

 明日は満席、ユズの会だ。また部屋でカンペを作ろうっと。もっと熱く言葉を発したい。悲しいかな、拙すぎる仏語が涙の水鉄砲なのだけど。反省していたら事務局長イマイさんがなぐさめてくれた。「いや、ちゃんと文章になってましたよ」。ちょっと喜んだが我に返る。しょせんその程度、人前で話すレベルじゃないよね…。まあいっか。明日も米を炊いてくれるという。よっしゃー。帰り際に見上げたエッフェル塔に誓う。ご飯パワーでやったるでー。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)

おやつ記者。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへてアトリエ「おやつ新報」主宰。

著書としてレシピ&おはなし集「おやつ新報へ、ようこそ。」(エンターブレイン、税込1680円)、パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」(文藝春秋、税込1800円)が発売中です。

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