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コラム「論より、おやつ。」

親方ユカの作業台(前編)

2007年05月28日

 「多田さ〜ん、元気でしたか〜」。大学で二つ下の後輩・河本由佳ちゃんと14年ぶりに再会した。建築士だが世界一周の旅人「河本ぼあら」として本を書き、岡山でラジオ番組を持つ人気者だ。本業が手すきなのをいいことに、おやつアトリエづくりの相談に乗ってもらう。

写真横倒しにして仕切り板を取り付け中
写真ユカちゃん手書きの組立図

 築70年の借家には、高さ7メートル余りの吹き抜けに台所がある。京都の町家で「走り庭」「通り庭」と呼ばれる土間だ。1人が立つのがやっとだから、表の6畳土間を「食の間」にする。大人4、5人が粉と遊べる台を置きたい。ステンレスの業務用は古い長屋に似合わない。できれば木のテーブルがいいが、買うと高そうだ。手作りしたい。由佳ちゃんの土産の「大手まんぢゅう」をほおばりながら、思いつきを並べた。

 由佳ちゃんは「4、5人が作業するなら畳一枚分はいりますね。やってみましょう」。テキパキと図面を描いた。すごい、魔法みたい。頑丈なように板は無垢のスギで、厚さ3.6センチある建築用を使うことにした。鳥取の木材業者に相談し、簡単で板のカット代も安くなる組み立て方を考えてくれた。塗料は食品に触れても安心なドイツ製自然オイルがお勧めとのこと。へぃ、ユカ親方、がってんだ。パリではいやおうなく壁塗りや棚付けをしたが、幅1.8メートルの大物は初めてだ。言われた通りにする。ステンレスの長いネジは100本ぐらい必要という。中京区の金物屋を4軒回って手に入れた。

 顔の広い「旅人ぼあら」は前もって、腕に覚えのある助っ人まで紹介してくれた。建築専攻の学生や、宿の主人らだ。頼もしい。彼らが組み立ててくれるだろう。甘かった。作りますと宣言した当日、だれも来なかった。広い土間にポツンと伸びる人影ひとつ。どうしよう。

 木材はどっさり届いている。人徳はないがパリ仕込みの荒業ブリコラージュ(日曜大工)術がある。困ったら岡山の親方ユカに聞けばいい。ホームセンターへ走った。まずは電動ドライバー。リョービ製で一番安い、赤いのを買う。パリでは充電式を使ったが、重くて疲れた。コードので十分だろう。床が傾いているから水準器もゼヒモノだ。

 メーンの板は1畳分の大きさで24キロある。支える側板を含めると計100キロはあった。運ぶのも命がけだ。高校時代、背筋力は120キロぐらいあった。うろ覚えの20年前のデータを頼りに板に抱きつく。よいしょっ。持ち上がった。

 水平でない床で水平でない心の持ち主が、水平な台を作れるんだろうか。のぞきに来た隣のカワモトさんに言う。「そりゃマイナスとマイナスをかけたらプラスや。水平になるで」。そうか。よく分からないが自信をもとう。まず採寸を慎重に。竹の定規を当てて、息を詰めて横木を渡す位置を記した。

 板をドッコイショと立ててネジを締める。倒れてきませんように……。ぐっと踏ん張ってドリルを付きたてたつもりが、3本に1本は失敗する。どうしてもネジが「なめる」。ネジの十字をつぶし、まんまるになって板に沈んでくれない。何かで引っこ抜かなければ。またホームセンターに走る。電動ドライバー選びの助言をしてくれた男性がいた。私の顔を見るなり「ネジ、難しいでしょう」と一言。どうして分かるの……。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。個人blogはおやつ新報社
朝日カルチャーセンター神戸大阪京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。

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