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コラム「論より、おやつ。」

親方ユカの作業台(後編)

2007年06月04日

 日曜大工はネジに始まりネジに終わる。千里の道もネジ1本より。ネジ1本を笑う者はネジ1本に泣く。畳1枚分の作業台を組み立てながら、格言ばかり浮かぶ。

写真棚で暴れても台は平気。ホッ
写真完成した作業台。側板にユカ親方の組立図を張ってキズ隠し

 グッと力を込めて赤の電動ドライバーを構えたつもりが、振り回される。ダダダー。鉄の切っ先がネジそっちのけで踊り出す。あーあ。板の表面がボコボコに傷ついてしまった。「えらいことになって。表面が穴だらけ(泣)」。大学の後輩の建築士・河本由佳ちゃんにSOSメールを送る。「無垢の木は水を含むとふくらみます。なので、そ〜っと水をたらせば元に戻ります」。落ち着いた答えが返ってくる。なるほど。木って素直なのね。

 わがままなネジはピョコンと飛び出したままだ。軍手を2枚重ねにして、プライヤーで引っこ抜く。握力が効かなくなる。こんな調子で台が崩落しないだろうか。心配になって木工ボンドをべっとり塗り、5センチおきにネジを打つ。

 肉体労働って本当に体が甘みを欲する。ジョギングしてもノドがかわくだけなのに。サクマドロップスの缶は必需品だ。なめながらプライヤーを操る。休憩中には九州名物・白熊アイスを食べる。なくなると向かいのスーパーに走る。

 怖いのはネジだけじゃない。幅1.8メートル、重さ20キロの板を立てる。水平でない床だから危なっかしい。直角に取り付いているかどうか。案の定、天板の真下にスッポリはまるはずの棚板が、どうしても入ってくれない。台の下にもぐりこんで無理やり入れる。痛っ。重さ10キロの板が落下、ヒザを直撃する。土間に姉さん座りしてうなだれる。

 とりあえずネジもたくさん打った。ぶつかっても痛くないように、四隅は丁寧に紙ヤスリをかけて丸くした。クルミ色の自然塗料を塗る。やたらムラになる。もう使い古したような感じになった。まぁいっか、築70年の長屋にはお似合いだ。材料代は4万円、完成までに親方と交わしたメールは50通になった。ヒザにこしらえた青タンは三つ。買ったほうが安くて手っ取り早い気がするのは、お菓子作りと同じだ。世界で一つだけの作業台ができたのだもの、経験はプライスレスってことにしよう。

 組立図を側板に張って完成とした。のぞきに来た隣のカワモトのおばあちゃんに「これ、私が作ったんです」と胸を張る。「まぁ、あんた男の子かいな、女の子かいな。えらいこと」とほめられた。手縫いのれんを持って来た幼なじみ・エミゴも「よう作ったなぁ」。のれんを玄関で広げていると、彼女の息子ショーヤンが消えた。あれっ?「チカゴ、ここだよ〜」。ショーヤンの声が下から聞こえる。「あっ、どこに入ってるの」。台の棚にもぐりこみ、転がってはしゃいでいた。体重15キロ。うわぁ、棚が落っこちないかな。へっぽこ系ガテンの女の心配をよそに、台はビクともしなかった。ホッ、荷重テストも合格だ。お菓子の作業台は、5歳児の隠れ家にもなった。親方ユカに報告する。「1人でよくぞここまで!」と喜んでくれた。いいえ、貴女の遠隔操作があってこそ。世界一周の旅をして本を書いた彼女の次作は「親方ユカのDIY指南」と勝手に決めている。さて、次はベンチを作ろうっと。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。個人blogはおやつ新報社
朝日カルチャーセンター神戸大阪京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」(楽天ブックス別ウインドウで開きます セブンアンドワイ別ウインドウで開きます)が7月下旬、文藝春秋より発売されます。

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