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コラム「論より、おやつ。」

だまし絵の甘い寿司

2007年07月02日

 牛乳がゆ(リ・オ・レ)はフランスの定番デザートだ。14区にある人気の食堂で、勧められるまま頼んだことがある。スープ壷にたっぷり入り、キャラメルソースをかけて食べた。和製の舌は戸惑っていた。神戸マダムのジツエさんに話すと「でも一度は食べてみたい」と言う。試作してみよう。パリのビストロ60軒の献立を紹介した「ビストロノミーク」という本をめくる。作り方、あるある。「おばあちゃんの牛乳がゆ」はいいにしても「リゾット風牛乳がゆ、カレー味のマンゴー添え」てのは、ううむ。

写真だまし絵の甘い寿司。カラメルをかけたほうがおいしい
写真気まぐれチョコがゆ
写真マカロニの黒みつ掛け。やわらかくゆでたほうがおいしかったです

 18区の三兄弟通りにある食堂「ラ・ファミーユ」のページでギョッとした。「だまし絵(トロンプルイユ)の甘い寿司」とある。コメは牛乳と砂糖、ヴァニラビーンズで煮ておかゆさんにする。冷ましてスシのように握る。3貫ずつ皿に盛り、トロのようにスイカをのせる。鮭の替わりにはオレンジ色のメロンを。ワサビはピスタチオのペーストに、ショウユはカラメルソースに変身する。どうぞおはしで召し上がれ……。うわー。

 天才と呼ばれる菓子職人ピエール・エルメの本「グルマンディーズ」にも、牛乳がゆのレシピがあった。題して「気まぐれチョコがゆ」。牛乳がゆにチョコレート、干しブドウ、バターをぶちこみオーブンで焼く。気まぐれ(オレオレ=ole ole)は牛乳(オ・レ=au lait)とのシャレにして、味も計り知れないってことだろうか。

 怖いものみたさで作ってみた。ついでに日本の新聞で見て驚いた「マカロニの黒みつ掛け」というのも試してみる。

 牛乳がゆにはイタリア産のコメがいいとあるが、いつもの新潟コシヒカリで代用する。スシネタはメロンとパパイアにした。ピスタチオは高いので省く。ほんわり白い牛乳がゆを、たなごころにのせて握る。うわー。お寿司の神様(いるかな)、私を許して。チョコがゆは抵抗がなかった。8人分でコメ50グラムと少ないし、チョコのおかげで米粒が見えないせいか。

 「黒みつマカロニ」用のマカロニは芯が残るぐらいにゆでて、リンゴと一緒にきな粉と黒みつであえる。我が舌は「硬いのはヘンだ」と訴えた。フニャフニャにゆでて作り直す。アルデンテにこだわるイタリア人なら、パスタの神様に謝るかも。3品の試食には近所の町家にある建築事務所のメンバーを誘う。「怖いおやつがあるんですけど……」。

 まずは「寿司」。「うわぁ、何ですかコレ!」とチアキちゃんは叫んだ。クミコちゃんはエイヤッと1貫、まるごと口に放り込む。だ、大丈夫か。目を白黒させながら「フルーツぼたもちですね」と言い、4貫を平らげた。お見事。チアキちゃんは「日本人だと思うからダメなんだ」とパリジェンヌになったつもりでつまむ。が、ここは京都の下町だ。努力もむなしく舌が混乱しはじめ、1貫食べるのがやっとだった。甘いもの好きのハジメちゃんは「お寿司の形じゃないほうがいいけれど、カラメルとはあってる」。ハルオさんは「……。胃薬飲みます」。お次のチョコがゆは好評だった。もう少しご飯を足しても、という積極的な意見もあった。

 マカロニは問題なく食べてもらえた。保育士だった友人によると、マカロニにきな粉をまぶした「あべかわマカロニ」は、保育園で定番のおやつだそうだ。へぇー。お餅より小さくて食べやすいせいだろうか。マカロニの料理メモが載っていた新潟日報のサイトーさんにも聞いた。まったく動じず「黒みつマカロニ、そんなに珍しい食べ物でしょうか」。さすが学芸部デスク、ふところが深い。私はサイトーさんになりたい。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター神戸別ウインドウで開きます大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。
 「パリ砂糖漬けの日々」写真展を、大阪、北九州、岡山で開きます。20〜50点の写真が織りなす、パリ20カ月の風景です。
 ・北九州 9月1日(土)〜10日(月)の10:00〜18:00、小倉北区室町のリバーウオーク北九州内、朝日新聞西部本社4階・朝日さんさん広場
 ・岡山 10月10日(水)〜11月2日(金)の11:00〜22:00、岡山市内山下のルネスホール内、公文庫カフェ

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