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コラム「論より、おやつ。」

南仏の民宿風タプナード

2007年07月23日

 きもの姿で私のアトリエに来てくれた名古屋のタエコさんは「居心地がよすぎて動けなくなる」と言った。うれしい。パーティーや写真展の来訪者の手土産も、たくさん。福岡の2人のミカさんは焼き菓子ダックワーズ、名古屋のミドリさんは「えびせんべい」、岐阜のエリさんは彼の住む街の手延べそうめん「揖保の糸」、東京のユカさんはカヌレ型……。お礼に「お茶でも」と和室に招く。ちゃぶ台を囲んで偶然居合わせた女の子同士、2時間は話しこんで帰っていく。

写真バゲットにのせたタプナード。私はツブツブ派です
写真拙著「パリ砂糖漬けの日々」(文藝春秋、7月27日発売)。表紙は私の手製菓子で、帯はパリ時代から愛用しているベーキングペーパーがモチーフです

 老舗の佃煮をくれた東京のミカさんは、派遣OLの切なさを訴えた。頭痛がしたので会社付属の病院に行ったが薬さえもらえず、別のクリニックに行けと言われた。さらに天敵はオランウータンみたいな40代の上司だ。ミカさんに車を呼ぶよう命じる。いますぐ配車は無理だと伝えても「絶対取れ」。行き先はたった2駅先でも。あー、いるいる、こういうひと。一同うなずく。何か仕返ししたいよねぇ。やさしいミカさんは「そんなことできない」。正社員より200円高い550円の社食の魚定食にも「しかたないかなぁ」とはしを運ぶのだった。

 元気になって帰ってもらいたい。パーティーで出した私の手料理のうち、彼女はエビのテリーヌをことのほか喜んでくれた。「エビがたくさん入っていて、誠実な人の作ったテリーヌって感じ」。オリーブのペースト・タプナードは、オリーブは苦手なのに「結構いける」と、バゲットに塗って食べていた。福岡のチーズ研究家ミカさんは鋭い。「このタプナード、何か隠し味が入っているでしょう」と尋ねてきた。

 南仏カルカッソンヌ近郊のトリュフ農家で、何度もおかわりした味だ。南仏の食卓に欠かせない。肉料理や野菜スティックに添えたり、パスタに混ぜたり。九州の柚子コショウみたい。スーパーで瓶詰めも売られているが、宿のあるじジャック手製のタプナードはマイルドで、どこよりもおいしかった。

 あの味を京都で再現したい。ジャックの妻フレデリックにメールを書いた。すぐに作り方を送ってくれた。「分からないことがあったら、また連絡して。ミネルヴォワ村産の白ワインがあれば、もう最高よ!!!」。感嘆符が三つも付いていた。

 パリで買ったプロヴァンス料理の本によると、タプナードは黒オリーブにケッパー、アンチョビ、黒コショウが基本の材料だ。あとはニンニク、アーモンド、ナスなどお好みで加えて。ジャックのは香草・タイムが入るので、やさしい味に仕上がるのだろう。

 そうだ、タプナードに唐辛子を思い切り混ぜて、オランウータンに出したらどうだろう。ミカさんは首を横に振った。「辛くても気づかなそう。ずぶといヤカラだから!」

     ◇

 8月4日、拙著「パリ砂糖漬けの日々」出版パーティーを京都のアトリエ「おやつ新報」で開きます。どうぞお越しください。詳しくは「おやつ新報」へ。

南仏の民宿風タプナード

材料(作りやすい量)

  • 黒オリーブ(種なし)500グラム
  • ケッパー大さじ1
  • アンチョビ2枚
  • ニンニク1片
  • レモン汁、タイム、黒コショウ少々

作り方

  1. オリーブ、ケッパーは汁気を切る。
  2. 材料すべてをフードプロセッサーかハンディプロセッサーにかける。粒あん好きはオリーブのツブツブが残るぐらい、こしあん派は滑らかになったら止める。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター神戸別ウインドウで開きます大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。
 「パリ砂糖漬けの日々」写真展を、大阪、北九州、岡山で開きます。20〜50点の写真が織りなす、パリ20カ月の風景です。
 ・北九州 9月1日(土)〜10日(月)の10:00〜18:00、小倉北区室町のリバーウオーク北九州内、朝日新聞西部本社4階・朝日さんさん広場
 ・岡山 10月10日(水)〜11月2日(金)の11:00〜22:00、岡山市内山下のルネスホール内、公文庫カフェ

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