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コラム「論より、おやつ。」

おやつの庭4姉妹

2007年07月30日

 大家さんにしかられた。エアコンの工事日を告げなかったからだ。日にちまで伝えなきゃダメなのね。「こういう家やから」。この長屋、文化財だったか。朝から空気がモワッとする。「これが京都の夏やで」。隣のカワモトさんがうれしそうに言う。

写真草むらから一変、庭らしく。手前左半分が「食べられる庭」になる予定
写真鎌田沙織さん作の切り絵タンブラー

 大家さんはほったらかしの庭も気がかりなようだ。お隣さんに「カノジョ、庭どないしてる?」と聞き込みしている。「はよ砂利でも敷いとき、草生えるから」。春先に言われていたのに。いわんこっちゃない、6畳ほどの空き地はあっというまに草ボーボーになった。

 青写真はあった。花よりイモやハーブを植えたい。おやつが実れば、ひもじくなっても生き延びられる。でも畑にしたら「こういう家やから」と大家さんが嫌がりそうだ。どうしようと思っているうちにアトリエ完成の日が迫った。雑草退治に夜な夜な1人、スコップをふるったのがせいぜいだった。近所に怪しまれていたかもしれない。

 知り合った庭師からもらった竹10本も転がしたままだ。中途半端な空き地は、写真展に来たマリさんの目に留まった。「竹はベンチにしたら」「ノンノン、畑ではなくてベジタブル・ガーデン。食べられるけれど、すてきな庭にしましょう」。甘えていいんだろうか。お菓子の作業台作りを「手伝いましょう」と言ってくれた友人の友人たちは結局、だれも来なかったから。

 緑の手を持つ女に二言なし。「初めまして」から6日後、マリさんは約束どおりやってきた。「これさえ植えれば日本庭園」というジャノヒゲをバケツいっぱいにして。彼女の友人サオリさん、リサさんもやってきた。わぁ、うれしい。「おやつの庭4姉妹」になった。

 「末娘」サオリさんは19歳の芸大生だ。ホームセンターで買った敷石をバランスを考えながら埋めてくれた。沖縄での海女(あま)さん暮らしから陸に上がり、竹職人になったリサさんは29歳。ヒザをついて竹を切り始めた。私が思いつきで「車止めを竹で作りたい」と言い出したからだ。竹をカセットコンロであぶって油を出して、丁寧に押してジワジワ曲げる。一番お姉さんのマリさんは虫よけ帽子をかぶり、オリーブの木のそばにプルーンの木を植えていった。

 4カ月見ぬふりをしていた雑草天国は、たった半日で庭らしくなった。すごい。キスチョコを口にほおりこみながら、お互いのことを話した。サオリさんは切り絵作家で、スターバックスのタンブラーに入れた作品を見せてくれた。「秋田が生んだ天才」とマリさんが言うように、ミリ単位の手仕事は鳥肌が立つ美しさだった。さっそく口説き、アトリエで個展を開いてもらうことにした。リサさんとも「自分で作った竹のスプーンでプリンを食べる会」なんてできたらいいね、と話す。マリさんの庭いじり魂は火がついたようだ。「残りの畑スペースを耕しましょう」。どんどん本格的になってきた。よーし、鍬(くわ)、買って来ようかな。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター神戸別ウインドウで開きます大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。
 「パリ砂糖漬けの日々」写真展を、大阪、北九州、岡山で開きます。20〜50点の写真が織りなす、パリ20カ月の風景です。
 ・北九州 9月1日(土)〜10日(月)の10:00〜18:00、小倉北区室町のリバーウオーク北九州内、朝日新聞西部本社4階・朝日さんさん広場
 ・岡山 10月10日(水)〜11月2日(金)の11:00〜22:00、岡山市内山下のルネスホール内、公文庫カフェ

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