現在位置:asahi.com>>コラム>論より、おやつ。> 記事

 

コラム「論より、おやつ。」

ヒヨコ豆の油で煮たん

2007年08月06日

 オーブンをのぞきこんでいた祇園の履物屋の3代目・コーイチさんが言った。「あ、クッキー、ふくらんではる!」。お菓子にまで「〜はる」を使うのね。みやびなのは言葉だけ。暑い。日本の夏は3年ぶりのせいか、どこでも自転車で出かけるせいか。初めて書いた本「パリ砂糖漬けの日々」(文藝春秋)が発売されて以来、本屋を見れば寄ってしまう。新刊、海外紀行、料理実用書のコーナーと回遊する。見当たらない。やっぱり京都、一見さんお断りなのか。帰り道のペダルが重い。

写真モシャモシャ伸びるお豆さん

 しおれていると、コーイチさんが祇園の芸妓さんの名が入った「京丸うちわ」3枚をくれた。花街では名刺として夏、得意客に配られる。白地に赤い筆文字が、はんなり。あおぐにはもったいない。コンセントを隠すために天井近くの白壁に飾る。お茶屋か料理屋みたい。ぐっと涼しげになった。

 首にタオルを巻き、庭いじりに精を出す。野菜を育てるには「30センチは掘りましょう」。コーイチさんの妻マリさんがいう。スコップを突き立てる。硬い地面を掘り返す。ここは二条城から遠くない。徳川の埋蔵金、やーい。発掘現場のように掘る。シジミの殻やお茶わんしか出てこなかった。やっぱりなぁ。お宝は自家製の野菜やハーブということにしよう。

 「食べられる庭」をめざして、ヒヨコ豆20粒を庭にぶちまけていた。ぽっくりした味もぷっくりした形も大好きだ。つぶして揚げ団子にすれば、パリ・マレ地区でよく食べたファラフェルになる。おうちで作る定番は、「オリーブ油で煮たん」。仏製の鋳鉄鍋ストウブにイカ、戻したヒヨコ豆、つぶしたニンニクを入れて、ひたひたとオリーブ油を注ぐ。塩コショウして、油がブクブクふくらんだら火を止める。ほおっておくだけでじんわり煮えて、ホコホコになる。7月に開いたアトリエ完成パーティーにも出して、評判のよかった一品だ。

 鍋に入りきれず余らせた豆は、けなげに庭で芽を出した。モシャモシャと10センチ丈に伸びている。えらい。育てるのが簡単なシソさえ枯らした腕前なのに。レタスやバジルの苗と一緒に育てよう。庭はアトリエ完成の日には間に合わなかったけれど、出版パーティーにはお披露目できそうだ。

 今回のパーティー、何を作ろう。庭の期待の星・ヒヨコ豆はもちろんエース格の料理に。おやつは乳製品と小麦がダメな友人のために、豆乳プリンなんてどうだろう。マリさんに相談する。嵯峨の豆腐屋「豆繁」がいい、と即答された。地元民が有名店より愛する隠れた名店だそうだ。へぇ、ぜひ使いたい。豆乳4リットルを取り寄せてもらう。

 献立を考えていると思わず燃えて、ますます暑苦しいヤツになっている。買い出しリストを作っていると、あっというまに夜が明ける。これを書いているのはパーティー2日前。60人分の料理とお土産の焼き菓子、これから1人で仕込みます。私の相棒オーブン、きばってくれはるやろか。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター神戸別ウインドウで開きます大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。
 「パリ砂糖漬けの日々」写真展を、大阪、北九州、岡山で開きます。20〜50点の写真が織りなす、パリ20カ月の風景です。
 ・北九州 9月1日(土)〜10日(月)の10:00〜18:00、小倉北区室町のリバーウオーク北九州内、朝日新聞西部本社4階・朝日さんさん広場
 ・岡山 10月10日(水)〜11月2日(金)の11:00〜22:00、岡山市内山下のルネスホール内、公文庫カフェ

この記事の関連情報

このページのトップに戻る