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コラム「論より、おやつ。」

同い年とメルシーサブレ

2007年10月08日

 「タダちゃん、覚えているかどうか…」。アメリカからメールが届いた。入社同期のMちゃんだった。うわぁ、10年ぶり。同い年の彼女とは新人記者時代、辞めたいと言い合えた唯一の友だった。2カ所目の任地で彼女の「都合により退社」を知り、ショックだった。ずっと連絡がなかったのに、ネットで私を見つけたらしい。渡米して大学院に入り、いまはロスで記者をしているとあった。かっこいいな、まぶしいな。Mちゃん、異国で頑張ってたんだ。「タダちゃんの転身、勝手にうれしく思っています。本取り寄せました。楽しみです」。うれしいのは私のほう。あーあ、涙が止まらない。

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 同い年ってうれしい。アトリエの近所に実家があるノリちゃんもそうだ。北野天満宮の「ずいき祭」に一緒に行った。「このあたり、ずいき祭は祇園さんより大事」なんだそうだ。ほとんど初対面だが同学年、丁寧語にタメ口が混じる。銀座のかりんとう、浅草の芋ようかんの袋を渡される。「京都のお菓子も知ってほしいねん」と宇治の抹茶フィナンシェまで提げていた。すみませんと言いつつ、我が手は袋をつかんでいる。

 ビール片手に2人でタコ焼を4舟、頼んで話した。海外に行ったり会社を辞めたり。「似てる似てる」。そろそろ自分の巣がほしくなるのも「分かる分かる」。だって同い年だもん。あくる日の昼には通りがかりに抹茶大福を、翌々日には寒天のお菓子を持って現れた。さすがに冷蔵庫がパンパンだ。

 もう来ないだろうと思ったら東京へ帰る日の朝、アトリエの扉をたたく音がした。わ、また甘いもの、じゃなかったノリちゃんだ。「コレないやろ。ここ火ぃ使うよって、絶対いるねん。おくどさんに張り。京都のウチやったら、どこでもコレあるし」。和紙1枚をヒラヒラさせた。愛宕神社の「火伏札」だった。火事にならないそうだ。どうしてこんなに世話を焼いてくれるんだろう。にじんだ目をエプロンでふいた。

 お礼したいが時間がない。できそこないの手製サブレなら山ほどあった。映画「めがね」を観たばかり。もたいまさこが踊る「メルシー体操」を思い出した。動けば動くほど力が抜けそうだった。体操があるならサブレもあっていい。食べれば食べるほど和む「メルシーサブレ」。溶かしたチョコレートで「merci」と書く。十代のころ、よくチョコペンでクッキーに書いたなぁ。ハート付きで描き、箱に詰めた。

 「こだま」で東京に戻る彼女を円町駅でつかまえた。3時間40分の車中の友に、サブレをどうぞ。「わぁおおきに」。乙女なつもりの手土産を受け取りながら、ノリちゃんは悔しそうに叫んだ。「しまった。ウチの冷凍室にビール忘れた!」。まぁまぁ……。

    ◇

 拙著「パリ砂糖漬けの日々」プレゼントで書いていただいた「論より、おやつ。」への感想が、asahi.com編集部から届きました。JR大阪駅で新快速を待ちながら読みました。「アスパラクラブで〈パリ砂糖漬け〉から読んでます」「このコラムは元気の素」「読んだお菓子がPC画面から出てくればいいのに」「ちょっとお間抜けなところが好き」「お友達になりたいです」「多田サン、いつも楽しいコラムをありがとう」……。

 午後10時過ぎの9番ホームで泣きました。前に立つスーツの男性が振り返るほどでした。すごい冒険をしたわけでも、ゴミ拾いを毎日したわけでも、年金の担い手をこしらえたわけでもありません。ガマンが足りず人生赤点続きの私を、見守ってくれるなんて。

 新聞編集者だったころ、活躍したスポーツ選手のコメントが「応援のおかげ」だったら「面白くない…」と思っていたのを今さら反省しています。本当に声援って、何よりも力をくれるんだなあ。実感しています。ありがとうございます。

 家に帰って印字したら、A4用紙15枚になりました。あの世に行くなら拙著とともに棺おけに入れます(って自分じゃ入れられないか)。多かったのが「レシピも載せて」との要望でした。ネット弱者のため、表にするためのタグに文章を埋めるのに失敗してasahi.com編集部に迷惑をかけても…という消極的な理由により、レシピ掲載がまれになっています。本にできたら、レシピ付きにするのが夢です。プレゼントに外れた方も、ぜひ拙著を読んでくださったらうれしいです。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター神戸別ウインドウで開きます大阪別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。
 「パリ砂糖漬けの日々」写真展を、岡山で開きます。20〜50点の写真が織りなす、パリ20カ月の風景です。
 ・岡山 10月10日(水)〜11月2日(金)の11:00〜22:00、岡山市内山下のルネスホール内、公文庫カフェ

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