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コラム「論より、おやつ。」

バニーガールとお色気菓子

2007年10月15日

 キャバレーイベントに一枚かんだ。舞台は旧日銀岡山支店(ルネスホール)。近くには昔、立派なキャバレーがあったという。大人の社交場を一晩、復活させようとの試みだ。ちょうど拙著「パリ砂糖漬けの日々」写真展をホール内のカフェで開く。フレンチカンカンの心得はない。色気はもっとない。でも私も何かやりたい。夢の夜にふさわしい「セクシーで甘美なおやつ」なんて出せたら楽しいかも。ホール理事のトクダさん、カフェのヤスダさんに5月、思いつきを言っていた。

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開演前にバニーガール2人がハイ、ポーズ

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ソファに横たわるガトー・ショコラとハイヒール型サブレ

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ノリノリで売り歩くサチエさん

 キャバレーか、うーん。開催日が近づき連想ゲームになった。チョコレートは媚薬だったからお似合いかも。溶かしたチョコで網タイツを描いてみる。すぐ折れた。我が両脚を手本に大根足にしたのに。パリのムーランルージュには名の通り、屋根に赤い風車がある。風車型のサブレに赤く染めた砂糖衣をかけた。なんだか幼い。カンカンの踊り子の足をイメージする。チョコの焼き菓子・ブラウニーを階段に見立てて積み、幅7センチのハイヒール型サブレを置いた。いい感じだが階段は震度1で崩れそう。京都から岡山まで40個も運べそうにない。

 ブラウニーは子どもっぽい気もした。茶色い妖精にちなんだ名前のせいか。チョコと粉、バターを混ぜて天板で焼くだけだから簡単だけれど、セクシーは一日にしてならず。大人の味をめざそう。チョコに泡立てた卵白を加えたガトー・ショコラにした。手のひら大の型に流して焼き、赤い画用紙を張りつける。赤いソファの一丁あがり。黒い生地にはハイヒール型サブレをのせた。どうだろうか。

 試作品を宅配便で送り、ヤスダさんにメールする。「赤いソファに敷いた黒いクッションは、カカオ70%の大人のガトー・ショコラ。ソファに残るハイヒールに、唇を近づけて。かかとから?指先から?あなた次第、さぁ召し上がれ…」。能書だけは立派だったが、ハイヒールは壊れて届いたらしい。トクダさんは「ありゃイモムシじゃった」と言った。イ、イモムシ…。

 イベント前夜から作り始めた。ガトー・ショコラは15個ほどずつ、3回に分けて焼く。3センチほどに切ったケーキ片を背中にして、ハイヒール・サブレを立てた。袋に包み、靴リボンをつけて出来上がり。やっぱり朝までかかった。両手に提げて京都駅をソロソロ歩く。今度はイモムシになりませんように。岡山駅からルネスホールに直行する。大正期の建物にミラーボールが下がっていた。リハーサル中のバンドの舞台裏に回り、荷をほどく。どれも無事だった。あとは売り子のバニーガールにお任せだ。本業は雑貨屋のサチエさんと薬剤師のヨシコさんと一緒に、紫のサテンの布を敷いたかごに盛る。準備は整った。チケットは完売で、客は200人を超すという。

 午後7時半、バニー2人が客席を練り歩く。サチエさんは「人気ですよ、お菓子」と、すぐに補充にやってきた。でも演奏中は売りづらい。お色気菓子は40分後、椅子に置き去りになった。せっかく焼いたのだから食べてほしいけれど……。徹夜明けで赤目の私が売っても怖いだけか。

 ダンスタイムも壁の花だった。帰りの電車で眠りこけた。実家に帰って気づく。携帯がない。あわててダイヤルする。車内で拾った男性が出てくれて、倉敷駅に預けてくれた。ふぅ。岡山、やっぱりええとこじゃあ。

 京都に戻り、切り絵作家・サオリちゃんに売れ残ったことを話した。「私がバニーちゃん、してもよかったんだけど」。彼女は一瞬、たじろいで答えた。「はは…。それもいいんじゃ、ないですか!」。ありがとう。二十歳にして、あなたはいつも私よりずっとオトナだわ。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター神戸別ウインドウで開きます大阪別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。
 「パリ砂糖漬けの日々」写真展を、岡山で開きます。20〜50点の写真が織りなす、パリ20カ月の風景です。
 ・岡山 10月10日(水)〜11月2日(金)の11:00〜22:00、岡山市内山下のルネスホール内、公文庫カフェ

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