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コラム「論より、おやつ。」

反則きりたんぽ鍋

2007年11月05日

 秋田出身の切り絵作家サオリちゃんが「きりたんぽ」をしようと言う。きりたんぽかぁ。何度か食べたことがある。チクワみたいなご飯を半つぶしにしたのが、お団子なんだかご飯なんだか…。舌が戸惑ったというと、画伯は大反論した。「しったげうめぇねが!(すごくうまいんです)」。

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完成したきりたんぽ鍋

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遠慮なんてなし、食い方、はじめ! 我先に箸を伸ばす

 20歳の秋田娘はイラスト入りレシピを書いてきた。どれどれ。ゴボウ、比内地鶏、糸コンニャク(白・結び)と指定が細かい。白菜や豆腐は入れないのね。魚のスープ・ブイヤベースの本場、フランスのマルセイユでは「ブイヤベース憲章」があって、具の種類が決まっているのと同じだろうか。

 偽装もあったし比内地鶏はあきらめる。祇園の履き物屋の3代目・コーイチさんは仕事そっちのけで、野菜の買い出しに走った。私は庭のレタスでも提供しよう。偽りなしの京都産、しかも無農薬だ。単にほったらかしにしているだけだが。畳1枚分の畑をのぞく。びっくりした。葉筋だけが地面にグッタリしていた。先週まで青々としていたのに。そばを毛虫がモコモコ歩いている。わー、君らのせいか。虫愛づる姫君ならよかったが、そういう趣味でもトシでもない。早く冬が来ないかな。お客さんが来る前にホーキで追い払う。

 きりたんぽ会には7人が集まった。フランス製の鉄鍋をちゃぶ台の真ん中に置く。あとはサオリ奉行にお任せだ。地元から取り寄せた「鍋セット」はスープときりたんぽ、だまこ餅入り。ゴボウのささがきを、水中にヒラヒラ漂わせる。鍋の幕開けとしては地味だな……。彼女は「失礼な」と菜箸片手に怒っている。京都人コーイチさんも叫ぶ。「鍋には、やっぱり豆腐いるで」。奉行の反対を押し切って、娘のモエちゃんに豆腐を買いに走らせた。秋田県人は渋い顔だ。ならば私も。福岡にいたころ覚え、パリまで持っていったほど好きな柚子コショウを取り出す。奉行にお伺いを立てる。「邪道ですけど」といいつつ認めてくれた。

 鶏モモ肉を入れたらアクをとって、しょうゆと砂糖で味付けをする。トリガラスープを注いだら糸コンニャク、マイタケ、ネギ、きりたんぽを入れる。最後に春菊(本当はセリ)をのせてふたをした。

 「まだ開けるの早いで」と、いつのまにかコーイチさんが仕切っている。マユさんは「影の奉行はコーイチさんですね」。秋田の味に京都と九州が乱入する。きりたんぽは初めてというマキさんも「おいしい」と満足そうだ。サオリちゃんは「本当はもっと、おいしいんです」と不本意なようだったが。シメのうどんにも卵を混ぜる。いい?と聞くと「もういいですよ」。あきらめ顔だった。あとから言われた。「元新聞記者によるレシピ改ざん問題です!」

 アレンジと言ってほしいが、海外で見かける「なんちゃって和食」みたいに見えるんだろうな、サオリちゃんには。どこかの食品偽装みたいに責任逃れを言わず、ここは素直に謝ろう。でも…おいしかったから許して。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

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