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コラム「論より、おやつ。」

エリさんとウェディングケーキ(下)

2007年12月03日

 エリさんは結婚式の前々日、岐阜から京都に来てくれた。小学生のころ白鳥型シューに感動した2人が四半世紀たって出会い、一緒にお菓子を作れるなんて。しみじみするには早い。ウェディングケーキと小さな引き菓子50人前を焼かないと。

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お手製のガトーショコラにケーキ入刀=堀勝志古さん撮影

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焼いて詰めたマドレーヌ50人分

 パーティーでふるまうシフォンケーキはボージョレ・ヌーボー味にして、紙のコーヒーコップで焼くことにした。品薄の発酵バターはネット通販3社から手に入れた。貝殻型のマドレーヌは100個あれば足りるだろう。ケーキ入刀用はどうしよう。生ケーキはパーティーのある名古屋まで運べない。カカオ70%のガトーショコラにして、ヤワでない大人の味に。ハート型で焼きたいが、ナイフを入れたらギザギザハートなんて縁起でもないか。エリさんに相談する。女子魂はかわいさ優先だ。ハート型で作ることにした。

 まずマドレーヌ生地を作り始めた。クッキー生地はサーファーのエリさんらしく、人魚やイルカ型に抜いて焼く。50個のシフォンは卵36個を使い、3回に分けて作る。卵黄と砂糖を泡立ててから、太白ごま油とボージョレをドボドボ混ぜる。ボウルの中はワイン色になった数秒後、薄い緑に染まった。どうして緑に変わるんだろう。不思議だと2人ではしゃいだ。

 彼とは当面、別居生活という。小さな城下町に住む彼は「おいで」と言う。エリさんは学究生活を続けたい。余計なおせっかいだけど、落としどころが難しそう。「でも、遠距離とか、条件とか、それが理由で嫌いにはなれないですよね」。そうかぁ。

 8時間かけて菓子は焼けた。次はラッピングだ。カップシフォンに海色リボンを飾り、マドレーヌを袋詰めする。エリさんが1つずつ「Eli」「Kay」と名前をスタンプした。「あ、腕が…」と、腕が痛そうだ。夜遅くまで新婦をこき使って申し訳ない。あとは引き受けた。大事そうに人魚クッキーを抱えた彼女を見送った。

 1人で作業しながら新婦の言葉を思い出す。それを理由に嫌いにはなれない、かぁ。つまらない理由を並べ、いろんな人やモノから遠ざかった気がする。ハァ。

 「ワレモノ!!」と箱いっぱいに書いて翌朝、宅配便で名古屋に送った。シフォンがつぶれやしないだろうか。ガトーショコラの砂糖がけ、溶けていないだろうか。式当日は京都にいながらソワソワした。晴れの日を終えたエリさんからメールがあった。「とっても幸せな時間でした!」。新婦の手作りケーキと紹介されると、どよめきが起こったそうだ。「台所に立つイメージじゃないのに」と感心されたらしい。

 送ってくれた写真を見てウットリする。黒いドレスがセクシーなエリさんと、はにかむ彼と、お手伝いしたケーキの3ショット。自分が写っているような気になっている。ずうずうしい。「お菓子は作る前、作っているとき、作ったあと食べてもらうときまで、ずーっと楽しいですねえ」とエリさん。「夢のようなアトリエで、きれいなボウルやスパチュラが魔法のように用意される『お姫様お菓子作り』だったからに違いありません!」

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

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