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コラム「論より、おやつ。」

ツタンカーメン畑に豆まき

2007年12月10日

 「35歳からが女は本物!」がキャッチコピーの女性ファッション誌「Grazia」1月号に載った。パリで着たきりスズメだったのを知るマリちゃんは「チカチャンが、じょせーしぃ?」と言った。語尾、上げすぎ。モデルデビューしたわけじゃない(聞かれていない)。「自分変身力」の身につけ方、との特集の実例になった。元同僚からメールが届いた。「新恋人発覚とか、スクープなかったな」。「女性自身」じゃないんだから。Grazia副編集長のミワコさんが「すごくいきいきしている」と言って選んでくれた写真の私はニッカリ笑っている。あの世の父から今、お呼びがかかったら遺影にしよう。勝手に思う。

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もみ殻と土を混ぜるマリさん

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豆まきして完了。春の収穫が待ち遠しい

 「変身力」なんて私こそ知りたい。早起きできない。もう夜勤生活でもないのに。スポーツクラブも半年で辞めた。月2、3回しか行けず、会釈を交わす相手もできなかった。受付を済ませたら出るまで黙ったまま。スタジオでもロッカールームでも「いちげんさん」を装って自分を守った。いつも来ているのに。

 京大前のフランス語学校にも登録した。出たのは最初の1カ月だけだった。教師に名前で呼ばれたことは一度もなかった。長く通っている人たちが多い。おフランスな輪に入れなかった。かといって独学もできない。勝手だ。

 「漫画偏愛主義」を書いている松尾さんの言葉を思い出す。「本能に近いことは1人でもする」。排泄しかり、食事しかり。5、6年前に旅した沖縄で聞いた。旅行を1人でする人、しない人って分かれるね、という話から発展したような気がする。いやー名言だ。フラ語も早起きも1人じゃしないが、1人でレストランに入ったり旅したりはする。後者は私にとって本能ってことか。なんとなく納得。本能じゃないものはやらなくても死なない。開き直る。

 庭の手入れも1人ではしない。嵯峨野のマリさんと開墾した庭の小さな畑は秋、毛虫ワンダーランドになった。レタスもバジルも食われた。せっかく耕したのに。「そろそろ豆を植えれば、春にはモシャモシャになります」と、マリさん。知り合いの畑から失敬したもみ殻2袋と、ホームセンターでちゃんと買った堆肥を抱えて来てくれた。

 スコップで思い切り掘り、もみ殻を混ぜる。ダイブしたいほどフッカフカの土になった。ついでに畑のスペースを広げる。形といい大きさといい、棺みたい。「庭にツタンカーメン埋まっとるで」。マリさんの夫コーイチさんが言った。確かに埋まっているみたい。ツタンカーメン畑には、ソラマメとスナップエンドウの種をまいた。ミミズ君も手伝ってくれて、春には土も肥えるはず。春の豆収穫祭を夢見る。

 「芽が出るまでは、暖かい午前中に水をやって」「芽が出たらツル誘引のための笹竹を立てに行きます」。緑の手を持つマリさんは怠け者を世話してくれる。ありがたくて涙が出そう。よし、せめて水やりぐらいは続けないと。私の「自分変身力」ってこの程度です。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

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