現在位置:asahi.com>食と料理>コラム>論より、おやつ。> 記事
忘れられたリンゴのタルト2007年12月17日 近ごろふられっぱなしだ。私のアトリエで切り絵年賀状づくりの会を開いた。開始10分前、キャンセルのメールが届いた。「体調が悪くいけません。すみません」。リンゴタルト作りの会は2人同時にすっぽかされた。2人ともキャンセルの電話やメールはなかった。どうしたんだろう。1時間待って、あきらめた。計量済みの粉やバター2人分をひとまとめにする。真っ赤な紅玉も残ってしまう。マンツーマン・レッスンになったヨシコさんと向かいあい、私もタルト生地を作る。
練ったバターに粉をまぶし、ゴムベラで切り混ぜる。サラサラになるまでヘラを動かしながら思う。2人ともアトリエの催し常連さんだった。私、何かしちゃっただろうか。「何か傷つけるようなことを言ったり、したりしましたか」。メールでヌケヌケと尋ねた。返事はなかった。理由は結局、分からない。急に立ち去られた気分だ。しおれる。 訪ねてくれる人がいるのが、改めてありがたいと思う。10数年ぶりに初任地の先輩と再会した。同じ会社にいてもずっとメール1本、交わしたことがなかった。なのに拙著「パリ砂糖漬けの日々」出版パーティーに花を贈ってくれた。 新潟・加島屋の鮭瓶を土産にくれた彼女に紅茶を入れる。夜に大阪の友人たちとの忘年会を控えていた。宴会用にこしらえた自家製リエット(豚肉のフランス風佃煮)やピクルス、パンを並べてランチにしよう。「そういえば、お昼ご飯も一緒に食べたことなかったね」。紅茶を手にした彼女が言った。そうだった。ダメダメ・おサボリ記者にとって、2つ上のバイリンガル記者はまぶしかった。 今夏届いた花のお礼を改めて言った。長く病気をわずらい、ちょうど復帰したてだったと初めて聞いた。そんな時期に私のこと、気にかけてくれていたなんて。花に添えられた「ずっと応援してました」とのメッセージに涙が出たが、またブワーとなりそうで、慌ててパンを勧めた。先輩はほとんど口をつけなかった。「夜の宴会用の横流し」と口走ったので、遠慮してくれたのだろう。 下鴨神社に向かう彼女をアトリエ前で見送った。あ、手製の焼き菓子を渡すのを忘れた。からし色のエプロンをひるがえし、自転車で丸太町通をかっ飛ばした。もう姿はなかった。「ありがとー、いいよー、気持ちだけで」。雑踏の中にいるらしい先輩が携帯で叫ぶ。いいえ、届けます。お間抜けな後輩から今日こそ卒業するんだ。泊まるホテルを聞き、自転車で乗り付けて届けた。 アトリエに戻る。テーブルに残るリンゴのタルト2つ。すっぽかされた材料で作り、先輩に渡すつもりだったのに入れ忘れた。あーあ、間抜けな後輩のまんまだ。えぇい食べちゃえ。しょうゆ色のカラメルは苦くて甘くて、なんともいえない味がした。 プロフィール
この記事の関連情報論より、おやつ。バックナンバー
|
ここから広告です 広告終わり 食と料理サイトマップフード・ドリンク
一覧企画特集
どらく
朝日新聞社から |