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コラム「論より、おやつ。」

女3人ビュッシュ・ド・ノエル

2007年12月24日

 新聞記者のヒロコさんとマリさんが、1カ月遅れで誕生日を祝ってくれた。京都・旧二条通の私のアトリエに集まる。ヒロコさんは京都で創業330年「大市」のすっぽんスープを、マリさんは手のひら大のフカヒレをくれた。私はクリスマス菓子ビュッシュ・ド・ノエルを作った。マンゴーとイチゴのムースが二層になっている。薄くシート状に焼いたアーモンド菓子「ダックワーズ」で包み、石ころのようなクッキーそぼろ「クランブル」を貼り付ける。

写真

クランブルとトナカイクッキーを飾った薪型ケーキ

 パリの製菓留学先で2年前に習った。上級課程に入っていた。クラス一の落ちこぼれだったが、さすがに大失敗しなくなった。何を作ってもヘタなりにおいしいし、作る量が毎回7、8人分と多い。甘いもの漬けで食べる喜びは薄らいでいたが、この薪型ムースには久々に感激した。生地とムースはしっとり、クランブルはザクザク。作りやすいのもいい。生地がひび割れたって、そぼろを飾るのでお構いなし。大ざっぱな私にもってこいだと思った。あれからもう2年たつんだ。

 講義ノートのレシピ通りに作ってみた。トシの分だけローソクを立てたら、炎上したハリネズミみたいになりそう。1本だけにした。記者と元記者の女3人、「きよしこの夜」と「ハッピーバースデー」を歌った。私が消して切り分け、2人に勧めた。Y紙マリさんは「んー、外国の味がする!」と言った。K紙ヒロコさんが続ける。「おいしいけど、クランブルもダックワーズもムースも、それぞれ主張しすぎる感じ」。へー、そうなんだ。フランスそのものみたい。ここは日本、和をもって尊しとなす。アトリエで開く菓子づくり用には、砂糖とバターはうんと控えめにしよう。

 誕生会は怖い話大会になった。ヒロコさんは近ごろ、マンションで不審火騒ぎがあったという。焼け焦げた外壁を見るたび気が滅入るらしい。マリさんは帰宅途中、自転車の男につけられた。さんざん話して午前1時、ヒロコさんは焦げた壁の自宅へ、マリさんも自転車で帰って行った。くれぐれも気をつけて。いつもより長く見送った。

 数日後、フルーツケーキを焼きに来てくれたオルガン奏者ヨシコさんの話も怖かった。パリのシャルル・ド・ゴール空港で先月、痴漢にあったという。帰国便に乗る前、免税店にいた。「スカートが汚れている。ふいてあげる」と男の店員が近づいてきた。時間がないと断ったが、搭乗券を見て「大丈夫」と言う。スカートを布で触られ、おかしいと思い始めた。「もういいから支払いを」と急かす。レジに入った男は突如、下半身を露出した。

 何しとんねん!「ヘルプミー!」の叫びはホール中に響き渡り、大騒ぎになったそうだ。セキュリティーチェックの係官や警官に必死で状況を話し、予定の便に乗り遅れた。「ありえへんでしょう、ほんまに。何考えとんねん、でしょ」。京都の街を一緒に歩きながら憤る。空港の免税店でそんな目にあうなんて。「私は日本に戻るし、ヤツは放免でしょう、きっと」。くやしそうだった。

 いくつになっても女1人、どこで何があるか分からない。気をつけようと言って、何をどう気をつけたらいいんだか。はー。とりあえず、メリー・クリスマス。いろんな平和を祈ります。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

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