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謎のアフガン土産

2008年1月14日

  • 筆者 多田千香子

写真路肩のイチジク売りとトモコさん写真葉っぱボールの中にはイチジクがどっさり=いずれも2006年7月17日、アフガン北部タシュクルガンで写真騎乗でヤギの死体を奪い合うブスカシ写真ブスカシの選手=2007年2月9日、アフガン北部マザリシャフで、いずれも提供・福村朋子さん

 「アフガンはパラダイス」とUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の保護官トモコさんは笑った。自爆テロをかいくぐる経験をして、そう言えるってすごい。前任地スーダンでは地面に穴を掘り、ナイル川の水をくんでシャワーを浴びるテント生活だった。「いやー生活より上司がひどくて」と顔をしかめた。東京だろうとスーダンだろうと、悩みは共通だなあ。

 トモコさんとメールを交わし、初めて会ったのは昨夏だった。緒方貞子さんみたいな崇高な感じだろうか。だったらおそれ多いと思っていたらチャーミングでしなやかで、いっぺんに好きになった。

 任地マザリシャリフからカブールまで、車で8時間かかるという。よく雪崩が起きる標高3000メートルのサラン峠を越え、国連機から民間機に乗り継いで無事、日本に帰ってきた。

 京都で何度か会った。最初はクリスマス菓子ビュッシュ・ド・ノエルを作りにアトリエに来てくれた。生地を伸ばすのも手慣れている。彼女の母キクコさんが「娘ながら手際がいい」とほめていた通りだ。任地マザリシャリフのゲストハウスでも時折、パスタやキッシュを作ったりするという。数少ない気晴らしなんだそうだ。

 アフガンで知り合ったパートナーの英国人ベネディクトさんも招き、スライド上映会も開いた。彼女の土産の乾燥イチジクやアーモンドをおつまみにした。なかでもパリパリした黄色くて薄い板みたいなお菓子がクセになるおいしさだった。サツマイモをキャラメルで煮固めたような味で、「おさつどきっ」みたい。イラン国境に近いヘラートから取り寄せたが、トモコさんも正体は知らないという。本当はCDとLPの間ぐらいの大きさの円盤で、現地でも割ってお茶請けにするそうだ。子ヤギの死体を奪い合う騎乗ラグビーのような競技ブスカシの写真を見ながら、あっというまに平らげてしまった。

 トモコさんが感動したイチジクの話も聞いた。車で走ってオアシスに入ると、草で編んだラグビーボールのような球を掲げる男たちに出会った。何だろうと思って近づく。イチジク売りだった。みずみずしいイチジクが手編みの葉っぱに20個ほど詰められて、100円ほど。葉っぱボールは暑さから実を守るためだろうか。トモコさんが言った。「感動したんですよ、うわーすごいぜいたくだなって」。本当に。ポリ袋なんて貧しく思える。高級料亭だってかなわない極上ラッピングだ。

 トモコさんから夏にもらった桑の実も、アトリエ訪問者に絶賛された。天然ピスタチオも苦味があっておいしいらしいが、戦乱のため荒れているという。せつなくなる。現地を応援するためにも、アフガンのドライフルーツや木の実を日本で紹介しよう。なんといってもおいしいし。2人で盛り上がった。

 日付が変わるころお開きになった。「かろやかで華やかなトモコさん、ダーリンもカッコイイ!」とY紙マリさん。A紙の後輩イセも「やっぱり現場の人の話は面白いですねぇ」。K紙ヒロコさんは「平井堅みたいでしたねカレ…」。

 アフガン土産のお礼に京都の老舗・一保堂の抹茶を渡す。おいしいと評判の抹茶マドレーヌのレシピもつけた。「マザール(マザリシャリフ)で焼きます」と彼女は言った。ゲストハウスにオーブンがあるという。どこにいたって彼女なら上手に焼くだろう。にっこり笑って、緊張の続く状況なんてちっとも感じさせずに。「アフガン木の実応援団」、実現できるよう私もがんばろう。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)

おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報」。

朝日カルチャーセンター大阪京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」が文藝春秋より発売されました。

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