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コラム「論より、おやつ。」

チョコタルト一切れ4000円

2008年01月28日

 イタリア男子に追いかけられたパリの夜を先週、つづった。彼の友人ユウさんからメールが届いた。「犯人はリカルドですよね。彼がそんな暴挙に出るなんて。本当にごめんなさい」。あっさりばれちゃったか(実名報道に切り替えます)。私の渡仏スケジュールをPことリカルドに知らせたことを詫びていた。いえいえ。ラテンの情熱(?)をユウさんが謝ることはない。

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安宿の朝食のパンでも十分、おいしいのがパリ

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チョコレートと黒トリュフのタルト26ユーロ(4000円)

 彼女に一部始終を伝えた。リカルドは私とパリで会おうと、一緒のホテルに泊まると言い張った。オデオンのスターバックスで待ち合わせようと言ったのに。あきらめて宿を教えた。返事は「じゃあ午後10時に。1杯飲んだらその後、何かしようね…」。カルチェ・ラタンの屋根裏部屋の洗面台に乗せたパソコン前で突っ伏した。「何か」って何じゃー。おまけにピリオド3つ付きだ。思わせぶりなのか急に腕がつったか。青くなって居留守を使ったが逃げ切れず翌夜、会った。返事をしなかった言い訳には「携帯を盗まれた」とウソをついた…。

 私と会ってすぐ、彼からメールが届いたそうだ。「パリでチカコは携帯をなくして大きなストレスを抱え、とても憔悴していた」。チカコがストレス? 日本でもカバンを肌身離さない人が、携帯を盗まれるなんて。おかしいなぁと思っていたが、コラムを読んでピンと来た。ユウさんは怒ってメールを出した。チカコの部屋に押しかけて、ドアをたたいて、ジャンジャン電話を鳴らしたんですって! ストレスの原因はあなたなのよ、あ・な・た!

 学習中の仏語を駆使して抗議したつもりが「嫉妬している」と勘違いされたらしい。ノンノン、君に内緒でチカコと会ったわけじゃない。きちんと報告したじゃないか。電話だってホテルだってチカコが携帯を盗まれたから、待ち合わせ場所を決めるためには必要だったんだ。なんといってもパリは大都会だからね。ちょっとだけ飲んで、話しただけさ。ユウさんはヘナヘナになった。私が怒ったのはそうじゃない…。居留守や携帯紛失なんてウソをつかざるを得ない状況に追い込んだことを怒ってるのに、通じてない…。

 本当に。イタリアでは3時間は「ちょっとだけ」なのね。事実も違うし居留守もバレたがまぁいいや。彼との一件があった(いや何もなかった、ホントに)翌日、宿を替えようと荷をまとめた。朝食にチョコパンをほおばっていたら彼が現れた。ほおを3回寄せる。「またねぇ」と屈託なかった。まったく、君が一番幸せだわ。

 何だかへたる。気を取り直そう。ホテル「ル・ムーリス」のバーに行った。黒服のお兄さんに勧められるまま、チョコと黒トリュフのタルトを頼んだ。朝にチョコパンを食べたばかりなのに。タルト生地と濃厚なチョコレート・クリームの間に、黒トリュフがびっしり詰まっていた。森の香りをかみしめる。「お気に召しましたか、マダム」。えぇ、とっても。ニッコリ笑ってお会計する。1切れ26ユーロ(4000円)とあった。ひー。パリではいつだって青くなってばかりだ…。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

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