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コラム「論より、おやつ。」

乙女のトリュフ作り

2008年02月11日

 バレンタインのチョコレート、何を作ろう。京都・嵯峨野の中1・モエちゃんに昨秋、相談された。お兄さんみたいな近所のトーマ君にチョコを贈りたい。高校生の彼は菓子職人志望だから腕によりをかけたい。ふーん、好きなんだ、トーマ君のこと。冷やかしたら首を振った。「お世話になっているだけ」。

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トリュフを作るモエちゃんとユキちゃん

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ココアをまぶしたトリュフ=いずれも京都市中京区のアトリエおやつ新報で

 どんなのがいいか、私の本棚にある菓子本100冊から選んでもらおう。「コレ作りたい!」。フランスのチョコレート職人ジャン=ポール・エヴァンの仏語レシピ本だった。たっぷりとココアがまぶしてある、まんまるトリュフを指さした。大人っぽい。ハートとか星とか、かわいいチョコでなくていいんだ。2月に入ったらチョコ作りの会を開くと約束した。

 雪が積もった週末、仲良しのユキちゃん、母マリさん、祖母レイコさんと一緒にやってきた。チラシの裏に作り方の日本語訳を書いた。モエちゃんの望み通り、フランスの名職人の技に忠実に。製菓チョコレートはカカオ分56%、70%の2種類をそろえた。高級チョコレート店で使われる仏ヴァローナ社製だ。まずは鉛筆を削るみたいにチョコを刻んで。そういうと「鉛筆削ったことない」。そりゃそうか。パウンドケーキを時々、作るというユキちゃんはナイフを上手に操り始めた。モエちゃんは手が温かいのか、指先がチョコだらけになっている。「私の指、おいしい」。なめるのに一生懸命だ。マリさんが叫ぶ。「ちょっと、その手、洗ってよ!」

 削ったチョコレートに温めた生クリームを混ぜて、バター少々も加える。冷えたら袋に詰めて、直径2センチぐらいに絞る。おしまいに絞り袋の先っちょをなめるのも忘れない。別のチョコレートを溶かして温度を上げ下げし、お団子チョコをくぐらせる。仕上げにはココアと細切りココナッツの2種類をまぶすことにした。モエちゃんは「これカツオ節?」とココナッツを指さす。迎えに来た父コーイチさんは「違う、ベビースターラーメンや」。おフランスはどこへ行った…。不格好なトリュフは味見用になった。「うわ、すごくやわらかい」「おいしい」と興奮していた。

「トリュフだけじゃさみしい」とのリクエストでサブレも焼いた。玄米フレークとオレンジ皮のシロップ漬けをホワイトチョコで和えたのも作った。ゆうに30人分はあるからラッピングが大変だ。はしりだせ、はしりだせ〜。嵐の「Happiness」が響く。2人で歌いながらトリュフをテトラ型に包んだ。

 4時間かけて仕上がった。こんなにたくさん、だれにあげるんだろう。モエちゃんもユキちゃんも「友チョコだよね」。友人10人にあげるという。好きな人は「今はいない」とユキちゃん。小学生のころは両思いの男の子がいたけれど「もう終わっちゃった」んだそうだ。モエちゃんは?「好きな人いませーん」とあっさり言った。いたって両親の前じゃ言えないよね。

 紙袋3つを抱えた4人を送り出す。いつのまにこしらえたのか、玄関に小さい雪だるまがいた。ふふ、かわいいな。さあ片付けよう。チョコだらけの作業台のすみっこに、走り書きのメモを見つけた。「たださん 男の子にあげるかも☆byもえ」。はーん、やっぱり。1人ニヤニヤする。なんかうらやましいぞ。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

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