2008年2月25日
前菜はパリの料理学校で習った鮭のテリーヌ
メーンは鹿肉のロティ、チョコの香りのソース、山盛りペンネ添え
「掃除していると吐く息、白いんですよ」。京都・鞍馬口通で「スガマチ食堂」を営むユカさんが言う。古い家を改造した清々しい店だが相当、冷えるようだ。「タダさんの長屋は?」ハイ、四畳半の和室は電気代ゼロ、もちろんノンフロンの冷蔵庫になった。120度近いレモン味キャラメルを型に流し、ちゃぶ台に並べる。ほどよく固まった。すごい。キャラメルづくりは苦手だったのに。
庭にある手洗いに人を案内するのは申し訳ない。「よーく冷えてます」とまず脅かす。すると寒さを感じずにすむ。「底冷えする」とさんざん吹き込まれたおかげで私自身、京都の寒さに拍子抜けしたから。
アキノさんが住むカナダ内陸の街は先月末、日中の最高気温がマイナス29度で、最低気温はマイナス44.4度だったらしい。マフラーにかかった息も鼻毛も凍る。ドイツ・ミュンヘンの音楽家ルメさんはスケート靴持参で、近くの運河に滑りに行ったとメールにあった。どこも寒い日が続いているのだろうか。
雨季のアフガンで働くトモコさんは相変わらず、地方出張が多いらしい。「冬晴れのロンドンから」とメールをくれたのはミホさんだ。就職活動の気晴らしに、イタリアの固焼きクッキー・ビスコッティを焼いている。
「すぐネタにして。だからモノを書く人間にうかつに連絡できないんだよー」と、ロサンゼルス在住ミレイちゃんに笑われそう。新聞社で同期入社だった彼女はいま、米大統領選取材に飛び回る。連載コラムも始まって忙しそうだ。「帰国したらブラウニーでも持って、タダちゃんの長屋に行くよ」。会えたら10数年ぶりになるんだなあ。
異国にいると京都へ行きたくなる。分かる、私もそうだった。バミューダ在住のミノリさんがアトリエに来てくれた。うれしい。初めて会うなり抱き合った。彼女を含めた7人で、私がパリで習った料理を作ってもらった。鮭は薄く切り、ゆで卵の白身とケッパーを巻いて前菜に。メーンの鹿肉ステーキには、チョコレート風味の赤ワインソースをかける。ミノリさんは「クセのない味」ときれいに平らげた。一年中暖かい島はイセエビがおいしいそうだ。また帰国したら、乗り放題のジャパンレールパスで来てくれるかな。
カナダのアキノさんは今ごろ1人で、手術台の上にいる。職も失ったばかりという。「wish me luck!」とメールにあった。梅が咲く北野天満宮までジョギングした。病気平癒のご利益がある神様まで行けばいいのに横着、お許しを。学問の神様、アキノさんを見守っていて。

おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報」。

朝日カルチャーセンター大阪・京都で食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」が文藝春秋より発売されました。
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