現在位置:asahi.com>食と料理>コラム>論より、おやつ。> 記事

コラム「論より、おやつ。」

台北スクーター小姐と臭豆腐

2008年03月10日

 台北駅前のYMCAでクリオと待ち合わせた。パリの製菓留学先で一緒だった彼女はいま、小さな洋菓子店に勤めている。週1日の休みに街案内をかって出てくれた。「ちょっと先にベンツがあるから」。案内された三越近くの路上には、グレーの100ccスクーターが停めてあった。マダーム、ベンツってコレですか…。

写真

スクーターに乗るクリオ

写真

マスク姿の筆者

写真

問屋街で食べた臭豆腐=いずれも台北・迪化街で

 排ガスよけマスクを渡された。クリオとおそろいのオレンジ色のギンガムチェック柄だ。ここは台湾小姐になりきろう。ヘルメットに顔が半分隠れるマスクをして後ろに乗る。ハンドルを握るクリオが仏語で叫ぶ。「オニバ!(行くよ)」。「ウィ、ア・ラ・バーンク!(銀行へ)」。クリオがずっこけるマネをしてアクセルを開けた。スクーターの群れが一斉にスタートする。ひぃー、振り落とされそう。その昔は中型バイクに乗っていたというのに。あれ、前の背中が怒っている。「ぎゃーぎゃー騒がないの!チカコのせいでビリッケツじゃないのっ」

 銀行は襲わず台北一の問屋街・迪化街をめざす。彼女も一度、ラッピング用品を買いに来て以来らしい。信号待ちの間、隣に並んだスクーターの男性に道を聞いている。乗せてもらっておいてナンだが、路面がデコボコでお尻が痛い。こわごわ周りを見る。3人乗りの親子の向こう、レンガ造りの洋館が後ろに流れていく。台湾映画の主人公になったみたい。

 スクーターを降りて腹ごしらえした。魚つみれ入り台南そばを半分こする。クリオは隣の屋台で「臭豆腐」も買ってきた。知ってはいたが「臭」の字が怖くて食べたことがなかった。厚揚げ風が10個ほどで35台湾ドル(120円)。白菜漬け、豆板醤と一緒にほおばる。あ、漬物っぽい味がする。好きな味かも。「パリで恋しかったなぁ」とクリオは言った。中華街にはなかったらしい。ポリ袋を巻きつけた皿にのっかっている一切れを、あっというまに食べた。

 からすみやドライフルーツ、お茶や布を売る店をひやかした。製菓道具店では台湾名物・パイナップルケーキの四角い型を見つけた。へぇ、手作りするんだ。専用の箱もあった。「鳳梨酥」と印刷された袋に入れたら、まるっきり売り物みたいだけれど。どの店でも値切り交渉してくれたが、「そごう」の化粧品売り場でも何事かささやくと1割引になった。デパートでもOKなんだ。

 買い物を終えてイモのデザート店で話し込んだ。仕事は大変らしい。オーナーとソリがあわず、一緒に働く4人中、1人は「よその惑星から来た」若い研修生だから。働く悩みはどこも似ている。午前7時から午後8時まで働いて、休みは週1日。のれんわけしないかと誘われるが「彼と組むのはちょっと…」。5月で辞めて故郷の台中に戻るらしい。「2年後には自分の店を出すわ」とあっさり言った。

 日本へ帰る朝、住宅街にあるクリオの店に寄った。「まだ準備できてないのに!」と言いながらマドレーヌやアーモンド菓子フロランタン、一口チョコを山ほどもたせてくれた。こんなに、ありがとう。フランス式に抱きつき、ほおを寄せてビズをした。クリオは久々だったのか照れくさそうな顔をした。半開きのシャッターの下にかがんで顔をのぞかせた。「次は台中へ来てよ!」

 マスクは次の台湾旅行までとっておこう。大事に持って帰った。ちょうど花粉が飛び始めた。あるのに買うのはもったいない。ギンガムの口元で烏丸三条のスターバックスに出かけた。うーん、京都人の視線が白い気がするのは気のせいか。

プロフィール

多田 千香子(ただ・ちかこ)
おやつ研究家・食ジャーナリスト。1970年、岡山生まれ。岡山大学法学部卒。朝日新聞記者として12年余、新潟・福山・大阪・福岡で働く。2005年、フリー。パリ製菓留学をへて現在、京都在住。ウェブサイトは「おやつ新報別ウインドウで開きます」。
朝日カルチャーセンター大阪別ウインドウで開きます京都別ウインドウで開きますで食やお菓子に関する講座を担当しています。パリ滞在をつづったエッセー「パリ砂糖漬けの日々」別ウインドウで開きますが文藝春秋より発売されました。

このページのトップに戻る